井嶋ナギの日本文化ノート

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井嶋ナギ のサイトです

幽霊と、月影屋の浴衣と、粋について。


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梅雨で涼しい日が続きますが、夏目前。夏と言えば? そう、幽霊ですよね!

(上画像は、「月影屋」による2009年発表「幽霊の浴衣」の柄一部です)

子ども時代、夏に幽霊さんは憑きもの…じゃなかった、付きものでした。というのも、夏は必ず、石川県の祖父母の家に行っていたからです。

そこは、まさに「日本昔ばなし」に出てくるような田舎&家でした。田園風景のなかの陸の孤島のような集落、その集落のなかの竹やぶに面した、築百年以上の古くてだだっ広い日本家屋。そんな家に、幽霊さんがいないわけがありませんよね? 離れにあったトイレに行くのなんか、命がけ。トイレに行くまでに、ご先祖の遺影のかかった巨大な仏壇のある部屋だとか、獅子頭の歌舞伎人形のいる部屋だとか、般若の能面が見下ろす部屋だとか通過しつつ、その間にも、畳はミシミシ鳴るわ、ガラス窓はガタガタ言うわ、電球のまわりで蛾がバタバタ羽ばたくわ、突如、古い掛け時計が、ボーンボーンと鳴るわ、恐怖音満載。

で、また、祖母(母方)が怪談話の名手でして、『番町皿屋敷』や、地獄に落ちた人間どもの阿鼻叫喚のようすなど、孫たちを集めてかなり詳細に語ってくれたものです。ある時、私が布団の上の枕を踏んづけたのを見とがめた祖母が、「枕を踏むと、足が腐って、歩けなくなるぞいね…」(←あやふやな能登弁)と話し出した時は、いつ自分の足が腐り始めるのか、その後一週間くらい恐怖におののいてました(涙)。

そんな原体験があったゆえか、小学生のときに父に与えられた『春雨物語・雨月物語』をこわごわ読み、さらに長じては泉鏡花の『眉かくしの霊』『雪柳』などの恐怖譚を愛読、大学の卒論では鶴屋南北の『東海道四谷怪談』を選ぶに至り、幽霊さんとはすっかり仲良く(?)なりました。特別ホラーが好きってわけではないですが(楳図は好き)、日本の幽霊さんは、なんだか哀愁滑稽味がうっすら漂っているところが、好きです。





そんな前置きをしておいて、「浴衣」の話です。


皆さま、「月影屋」の2015年新作浴衣を、ご覧になりましたか? 


なんと、テーマが、「う〜ら〜め〜し〜や〜〜!」です!!!(笑)
 



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ぎゃーーーッ! 出たーーーー!!!!!!!


……っていうか、この幽霊さん、「月影屋」の店主&デザイナー・重田なつきさんですが(笑)。いや、ほんと、スゴイ浴衣ブランドだなー、「月影屋」。


今年の「月影屋」には、素敵な幽霊さんがたくさん現れているようですよ〜! 何はともあれ、毎年楽しみにしている、素晴らしくユニークかつアーティスティックな「月影屋」新作浴衣イメージフォトをどうぞ!(撮影:和多田アヤさん)



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以上、もっとゆっくり大きな画面で見たい方は、コチラへどうぞ! また、以上の商品を通販で買いたい方は、コチラへどうぞ!! はたまた、単純に「月影屋、スゲーな(笑)!!!」と思った方も、コチラへどうぞ!!!



ホント、こんな浴衣ブランド、なかなかないですよねー! もう以前から拙ブログで「唯一無二の浴衣ブランド」と書いてきましたが。何しろ、「カッコイイ」と「セクシー」と「ハイセンス」と三拍子揃ってる上に、「ユーモアセンス」や「KY的豪胆さ」まで兼ね備えているという、まるで「理想の男」みたいな感じです(笑)。

私が初めて「月影屋」の浴衣に出会ったのは、10年ほど前、まだなつきさんが「ヨコシマの浴衣」を作られたばかりの頃だったのですが、「きゃー、なんて粋な浴衣だ!」と、その場で即買い(私にしては非常に珍しい)。それから、年々、年々、パワーアップされていて、今年の「う〜ら〜め〜し〜や〜〜!!」に至っては、予想だにしなかった展開…。今じゃ、「粋(いき)」とかいう域なんか、かる〜〜く超えています(笑)。



あ、ちょっと話は脱線しますが。「粋(いき)」っていうのは、ものすっごく微妙な領域だと思うのですよ。「粋(いき)」という概念を、水戸黄門の印籠よろしくふりかざす人は、わりと、要注意かと私は思ってます(笑)。というのも、「粋」って、自分で主張しちゃうと、もう「粋」じゃなくなるんですよー。権威としての「粋」をふりかざした時点で、それは全く「粋」ではない。そのくらい、「粋」っていうのは、微妙な、狭い領域の、語弊を恐れずに言えば、ある意味で、ケチな、負け犬の遠吠え的なものと紙一重の、概念だと思います。言うなれば、一昔前の「サブカル」みたいな感じというか、サブカルが権威になっちゃったら、それはサブカルではない、っていうのと同じで。えーと、詳しくは九鬼周造『「いき」の構造』をお読みください(「粋とは、負け犬的な、サブカル的な、概念である」とは書いていませんが笑)。

そういう「粋(いき)」っていうのは、江戸文化とかキモノなんかを好きになると、一度は憧れるのですが、「粋」というのは、もしかして徐々に乗り越えていくべき領域なのかもしれない、と最近思ってます。いつまでも「粋」にとどまっていると、 実は発展がないかも。とも、思うんです。逆に言えば、発展することを押さえつけられていた人たちの、最後のギリギリの反骨精神の現われ、負けるが勝ち的な「価値基準の転倒」が、「粋」という美意識でもあると思うのですね。そういう意味では、どうしてもいつもマイノリティになってしまう自分としては(笑)、やはり本心では、「粋」って、哀しくも愛おしい美意識だなぁ、とも思ってしまうのですが。



なんて、ちょっと脱線しましたが。

そんなわけで、今年の「月影屋」は、スゴイな、と。しみじみ思いました。ここまで来ると、粋かどうかなんて問答を持ちかけようものなら、

「エッ? わっちが粋かどうかッて? 
おきゃあがれ! 粋が怖くて、息が吸えるかいッ!

てな返答をされてしまいそうです(笑)。






で、さらにさらに。この「月影屋」の「う〜ら〜め〜し〜や〜〜!!」と、なにかどこでどうビビッと繋がったのか、東京芸術大学美術館で、なんと「うらめしや〜、冥土のみやげ」展が開催されるとのこと! なんというシンクロニシティ…。

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この展示会で公開されるのは、『牡丹灯籠』『真景累ヶ淵』などの怪談噺で有名な円朝先生による、幽霊画コレクション。このコレクションは、普段は谷中の「全生庵」にて所蔵されていて、毎夏「全生庵」で公開されていたのですが、今年は東京芸術大学美術館で公開! 円山応挙、河鍋暁斎、月岡芳年、伊藤晴雨、柴田是真、鰭崎英朋……と、浮世絵・美人画ファンにはたまらないラインナップ。

遠方で行けない方は、↓この『幽霊名画集 全生庵蔵・三遊亭円朝コレクション』(辻惟雄監修 ちくま学芸文庫)がオススメ! 私も愛蔵してます。

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この「全生庵」の円朝コレクションにプラスして、東京国立博物館の上村松園「焔」や、福岡市美術館の円山応挙「幽霊図」なども展示されるもよう。7/22〜9/13まで。これは楽しみ!


ぜひ今年は、「月影屋」の「うらめしや〜」な浴衣を着て、「うらめしや〜展」に行って、幽霊さんと交流を深めたいと思っております♪ みなさんも、ぜひ!




—— 関連記事 ——


■「月影屋」2015年の浴衣ショップ情報(原宿ラフォーレ、新宿destination、福岡H.P.DECO、松本セルティなど)→コチラ


結構、歴史を感じる、これまでの月影屋&浴衣関連記事。

■2014年:「「月影屋」浴衣で夏祭りへGOの巻★ もしくは、浴衣の形式昇格について。
■2013年:「youtube動画『井嶋ナギの浴衣講座』 〜「浴衣って何?」の巻、「月影屋にGO!」の巻
■2012年:「2012年「月影屋」新作浴衣&ラフォーレ原宿SHOPレポート!
■2011年:「緊急レポート☆2011年「月影屋」新作浴衣!!!
■2010年:「着付け講座in月影屋のレポートと8月開催のお知らせ
■2009年:「早くも浴衣計画始動! ~月影屋の新作浴衣とお金問題」「速報! 月影屋新作浴衣グラビア発表!!! 題して、「火傷すんなよ、ヨロシク。
■2008年:「2008年夏、浴衣決算報告!
■2007年:「お祭りと現代浴衣考

「キネマ旬報」にて、若尾文子作品のキモノについて書いております。

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梅雨ですね。…と書きつつも、前置きナシにお知らせです!

現在発売中の「キネマ旬報」(2015年6月下旬号 No.1690)若尾文子さま特集にて、若尾文子作品におけるキモノについて寄稿しております。



6/27(土)から開催される「若尾文子映画祭 青春」に合わせて、キネマ旬報では若尾文子さまを特集! さすが老舗雑誌だけあって、過去の(リアルタイムでの)文子さま記事や、文子さまグラビア、文子さまエッセイなどの貴重な再録、または、現在の文子さまへの30の質問(インタビュアーは五所純子さん)も読みごたえたっぷり。

そんな特集のなかの、「若尾文子が銀幕でみせた洋装/和装」ページにおいて、私が和装担当ということで、キモノ文子の魅力と楽しみ方について書いております! ちなみに、洋装編は中野翠さんです…!(大ファンです)


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上記のように、かなりレアなキモノ文子写真も、たくさん掲載されてます。特に、文子さまの角隠し花嫁姿の写真、美しくて異次元…。とにかく、ウットリしまくりの永久保存版! 書店で、もしくはネット書店で、ぜひぜひお求めくださいませ。



ところで、若尾文子さまはキモノ姿が多い、という印象ありませんか? 私はありました。今回、コラムを書くにあたって、改めてたくさんの「キモノ文子」(と、呼んでます笑)をひとつずつ確認してみたのですが、実際にホントに多かったです(と言っても、そもそも昔の日本映画自体キモノ率が高いので、一概に若尾文子作品だけが多いというわけではないかもしれませんが)。

今回の若尾文子映画祭では、60作品(!)が一挙上映されます。そのうち、私が見たものを数えてみたら46作品。で、さらにその私が見た作品群のうち、「キモノ文子」が登場するのは36作品、と、やはり結構な数になりました。……そんなわけで、今回コラムを書くにあたって、コツコツ集めてきた映像を、来る日も来る日も見続け、「キモノ文子」のコーディネートやらシチュエーションやらをチェックし、気になるシーンを写メりつつ、リストを作成し…って、もはや単なる趣味ですね(笑)。ええ、楽しかったです!(笑)

にしても、こんな素敵なお仕事をいただけて、感無量です。思えば、名画座通いをし続けて、20数年…。若尾文子作品を見た一番最初は、記憶の限りでは、池袋の文芸座(旧)で見た『日本橋』だったような。その後、増村作品で若尾文子の魅力にヤラれ、うわ言のように「若尾文子ぉ〜若尾文子ぉ〜若尾文子はいねが〜」とつぶやきながらあちこちのレンタルビデオ屋にゾンビのように出没しては借りまくり、くり返しくり返し見る在宅な日々(19〜25歳)。そんな不毛と言い切りたくなるような努力(?)がチョコっとでも陽の目を見れたかと思うと、泣けてきました。

とにかく、「大映」ものが好きで好きで。というのも、物心つくかつかないかの頃に「赤いシリーズ」を親と見て「ドラマチックの意味」を学び、小学生の時に『不良少女と呼ばれて』など一連のドラマに夢中になって「人生の方向性」を決定づけられた私としては、完全に「大映」ものにハマる下地が作られていたわけです(笑)。大学生になって、若尾文子、田宮二郎、西村晃、船越英二、雷蔵、などの出演作に条件反射的にヨダレが出てしまったのは、運命というか、宿命というか、要は「スリ込み」だよなーと思うわけです。

幼少期のスリ込みって、ホント大事ですね!(←結論)





若尾文子映画祭 青春
 角川シネマ新宿にて、6/27(土)〜8/14(金) 60作品を一挙上映!

前売りチケットがオシャレ!

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前売りチケットの特典ポストカードがすばらしい!

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—— 関連記事 ——


むかーし(10年くらい前?)、ブログ「放蕩娘の縞々ストッキング!」で書いた若尾文子映画&大映映画レビューなどなど。
■ 「【映画】 『獣の戯れ』~「文子的・奥さん文化」のススメ
■ 「【映画】 『その夜は忘れない』
■ 「【映画】 『夜の素顔』
■ 「【映画】 『複雑な彼』

「牡丹+毛=獅子」の謎、もしくは『石橋』について。

桜が満開ですね! …という桜とは全く関係なく、前回の記事で時間がなくなってしまったので次回、と書いた『「牡丹の花」+「少しの毛」=「これは獅子です」』の公式について。



前回の記事にも書きましたが、先日のLOTUSイベント@増上寺で、常磐津舞踊『東都獅子』(一部)を踊ったのですが、その際に「扇獅子(おうぎじし)」という小道具を使用しました。この小道具、実は、「獅子」なんです!

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…え、どこが? ですよね(笑)。扇を二枚重ねたものの上に、造り物の「牡丹の花」と「少しの毛」があしらわれているのですが、この「牡丹の花」+「少しの毛」=「これは獅子です」という公式がありまして…。(小道具は私のものではなく、花柳美嘉千代先生の私物です)



歌舞伎が好きな方にとっては常識ですが、歌舞伎舞踊(日本舞踊)には「獅子もの」という一大ジャンルがあります。その中でも、『連獅子』や『鏡獅子』なんかは非常に有名で、まるで歌舞伎の代名詞のようになっていますよね。歌舞伎のことなど全く知らなかった子供の頃、祖母の家に、隈取りした顔に白い毛の頭の『鏡獅子』の人形があって、「何だこれ…コワイしダサイ」と思ってましたが(笑)。

そんな『連獅子』『鏡獅子』のような超有名演目でも、成立は実はそれほど古くはなく、幕末・明治時代以降。近代化する日本において生き残るため、歌舞伎が「高尚化」していかざるを得なくなり能・狂言から題材を得た「高尚で典雅なフンイキの演目」が次々と作られるようになった中で、生まれたものでした。そうした「獅子」が登場する「獅子もの」の原作となったのが、能の『石橋』です。(いしばし、ではありません。しゃっきょう、です)



そんなわけで、「獅子もの(石橋もの)」のオリジナルである、能『石橋』のストーリーを、カンタンに解説しますと。




主人公は、とある修行僧。場所は、目もくらむような断崖絶壁の前。この断崖絶壁には、幅30cmくらいしかない細〜い石橋がかかっており、この石橋を渡った先のエリアは、なんと、文殊菩薩がお住まいになっている「浄土」! 

文殊菩薩がお住まいになる「浄土」を目前にした修行僧、当然、「こ、この石橋、わ、渡らばや!」(ばや=〜したい)とワナワナしていると、ある少年が現われてこう言い放ちます。「この石橋は、並大抵の人間が渡れるような橋ではありません。無理です」。が、続けて、「でもこの石橋の前にいれば、イイことあるかもよ?」と言い残して去りました。

かくして、石橋の前で待機していると… キター!! 文殊菩薩の使者である「獅子」、降臨!!!! 「獅子」は、目の前に現われたかと思うと、勇壮な獅子の舞を披露し、しばし「浄土」のありさまを見せてくれたのでした…(嗚呼、ありがたやありがたや)。




というのが、能『石橋』のお話です。若干、補足します。

補足1。「文殊菩薩」とは、知恵をつかさどる菩薩。釈迦(=ブッタ)を真ん中にして獅子に乗った文殊菩薩 & 白象に乗った普賢菩薩が脇をかためる仏像設置形式「釈迦三尊像」が有名なので、その一人である文殊菩薩も人々に信仰されていました。前述のとおり、文殊菩薩はたいてい「獅子」の上に座っており、「獅子」は文殊菩薩の使者とされていたのです。

補足2。「獅子」は、実はライオンでありません、架空の生き物である「霊獣」です(⇒こんな感じ))、長い毛がフサフサしているのが特徴で、能『石橋』でも、獅子は長い毛を頭につけています。それをマネた歌舞伎舞踊でも、もちろん長い毛をつけている…というかむしろ毛が超ロング化して、しかもその毛をブンブン振り回すのです…(能では毛は振り回しません)。

補足3。この、文殊菩薩がお住まいになるという「浄土」ですが、ここには百獣の王である「獅子」がいて、百花の王である「牡丹の花」が咲き乱れ、「牡丹の花と獅子が遊びたわむれている」という、夢のような浄土イメージがありました。能『石橋』でも、紅白の牡丹の木が登場します(⇒こんな感じ)。それをマネっこした歌舞伎舞踊でも、同様です(⇒こんな感じ)。



というわけで、獣の毛があって、牡丹の花があれば、「ああ、『石橋』の世界ね。獅子ね。了解!」というお約束ができた、というわけなのですね。

でも、『連獅子』などの歌舞伎舞踊が作られる以前の、江戸時代のころから、キモノの柄だとか調度品だとか、そういったものに「牡丹」と「毛」のモチーフを配して「はい、『石橋』の世界ですよー」っていう文化的な遊びが行われていただろうとは思います。どこで見たのか忘れてしまいましたが、武士階級の女性の打ち掛けに、そういうモチーフがあったのを見たことがあります。能は武家階級にとって大切な教養でしたから、牡丹と毛=『石橋』の獅子、っていうのは常識だったでしょうね。

ちなみに、この渦巻きのような模様も、獅子の「毛」、です!

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ちなみに言えば、江戸時代、庶民が能を見る機会というのは、普通はほとんど無かったようです。とはいえ、全く無かったわけではなく、例えば、江戸城でのお祝いごと(将軍の代替わりの時や、将軍家にお子様が誕生した時など)の際には、上級町人(町名主など)が江戸城に招かれ、「御能拝見」にあずかったとか(これを、町入能という)。

その時は無礼講とされていて、将軍が現れると「やぁ親玉!」「大将!」、老中が現れると「◯◯の守(かみ)しっかりしろ!」「ハゲ!」「白髪!」、町奉行には「馬鹿!」「マヌケ!」と、芝居小屋のような掛け声がかかったとか……いくら無礼講でも、将軍に「親玉」って(笑)。あとで「仕事人」にひっそりと殺されるんじゃ。えと、これは三田村鳶魚先生の本に書いてあったことですが、ホントなんですかね(笑)。



ま、そんなことはともかくとして。歌舞伎において、能から題材を得た演目というのは、もちろん「獅子もの」以外にもたくさんあります。「獅子もの」のほかに、「道成寺もの」(例『京鹿子娘道成寺』)、「松風もの」(例『汐汲(しおくみ)』)、「山姥(やまんば)もの」(例『山姥』)、「隅田川もの」(例『隅田川』)…と、舞踊にもお芝居にもたくさん。でも、それらは、題材は能からもらっているものの、演出や上演形式に能っぽさはなく、完全に歌舞伎化されています。

だけど、そんなかでも、『連獅子』『鏡獅子』は、ものすごくお能っぽい。衣裳(能では「装束(しょうぞく)」と言いますが)、大道具、舞台装置、動き、謡いやお囃子の感じなど、お能にそっくり! というか、「お能にそっくりにしようとしてます感」がヒシヒシと伝わってきます(笑)。こういうものを歌舞伎では「松羽目(まつばめ)もの」と呼んでいて、明治時代に入ってから次々と作られたとされていますが、これって、実際、正確にはいつからなんでしょうか? と、どんどん興味が広がって収集がつかないので、またのちほど…。




ちなみに、『東都獅子』は、明治も終わり頃の明治40年、新橋芸者によって踊られたのが初演とのこと。むかーし、花柳美嘉千代先生主催の「あやめ会」に出演した時に、衣裳をつけて『東都獅子』を踊りました。『東都獅子』の時の正式な衣裳・鬘は、こんな感じでした。(髪型は「吹輪」です!)

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増上寺「LOTUS 伝統文化の持つ力」日本舞踊ワークショップ、レポート! 

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先日、増上寺にて、東日本大震災支援チャリティイベント 日本伝統文化ワークショップ「LOTUS 伝統文化の持つ力」が開催されました!
前記事(⇒コチラ★)でもお知らせ致しましたが、花柳美嘉千代先生の門下として、今年も参加させていただきました! そのレポートをしたいと思います♪




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まずは、日本舞踊を鑑賞するコーナー。長唄舞踊『藤娘』(一部)。「藤の精」が現われて踊る……という何ともファンシーな設定ですが、歌の歌詞は、「他のおなごにフラフラしやがる男心が憎らしい」みたいな内容(笑)。




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それから、美嘉千代先生門下で一番お姐さんでいらっしゃる、千代子姐さんの『木遣りくずし』。93歳で、この背筋のピンと伸びた姿勢の美しさ! 背筋を伸ばすには、かなり背筋と腹筋を使います。若い人だって、何も意識しなければ猫背になるのが自然。その自然に逆らうには、日々の努力と意志が絶対に必要なわけで…、頭が下がります。。




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そして、私めが、常磐津舞踊『東都獅子』(一部)を踊りました。小道具は「扇獅子(おうぎじし)」という、扇を2枚重ねたもの。その上にあしらわれた「牡丹の花」+「少しの毛」=「これは獅子です」という公式となります。え、なんで?ですよね(笑)。ちょっと長くなるので、後述いたします〜。


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小道具の「扇獅子」には、長〜い紅絹がついており、最後はブンブン振り回して、絹布の動きの美しさを見せる踊りになりますー。




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長唄舞踊『鷺娘』のなかの、傘づくしの踊り。タレント・舞台女優として活躍していらっしゃる、小島ちはるさんと山口彰子さんです。




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東日本大震災チャリティイベントであることにちなんで、チャリティソング『花は咲く』を、増上寺・光摂殿大広間の仏様の前で(写真の後方)、花柳美嘉千代先生オリジナルの振付けで、踊らせていただきました(美嘉千代先生&名取3人)。
薄地の白い衣裳は、「かつぎ」と言って、中世〜江戸初期に女性が顔を隠すためにかぶったものです。




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日本舞踊ワークショップのコーナーでは、美嘉千代師匠の指導のもと、みなさんと童謡『さくらさくら』を踊りました。みなさん振りをすぐに覚えてしまい、大賑わいのようす♪ 踊りって、本当はみんなで踊ると楽しいですよね〜(盆踊りとかそうですけど)!





それから、私も、他のワークショップに参加させていただきました! 今回はぜひぜひ参加したかった、「三味線(荻江節)」ワークショップ。

荻江節と言えば、私は、玉三郎丈が荻江節で『鐘の岬』『稲舟』『高尾』を踊っていた(⇒DVD『坂東玉三郎舞踊集』シリーズ参照)のを思い出してしまいますが、それ以外はよく知らないので、興味津々…!

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荻江節(おぎえぶし)は、舞台で踊りの伴奏で演奏される「長唄」「清元」「常磐津」とは違い、鳴り物などのお囃子を使わず、本来は舞台の踊りの伴奏はせず、お座敷で演奏されるものだそう。でも、もともとの発祥は「長唄」から、とのこと。

荻江寿愼先生による、荻江節『喜撰(きせん)』の演奏を拝聴(上記写真)。しんみりとした、悪い意味ではなくジミな、シブい曲調で、「江戸中期以降の、裕福な旦那衆の、良いものを浴びるように見たり聞いたり触ったりしてきた果ての、さびれた品のいい趣味の良さ」って、こういう感じだったのかしら…なんて勝手に妄想。長唄が分かりやすいポピュラーソングだとしたら、荻江節は大人好みのシブいジャズみたいな感じ…? とかとか。いや、長唄のあの「何がなんでも踊らせてやる感」は、むしろサイケっぽい気もする、とかそういうこと言いだすとキリがないのでやめます(笑)。

しかし同じ『喜撰』でも、清元の『喜撰』ときたら、これでもかってくらいハデで、にぎやかで、猥雑なムード満載。同じ題材なのに、180度違いますね(笑)。先日お亡くなりになった坂東三津五郎さんが、この『喜撰』を得意にして大切にしていらしたのですが…。そうそう、ちょうど4年前、花柳美嘉千代師匠が国立劇場で『喜撰』を踊られましたが、華やかで色っぽい舞台でした。せっかくなので秘蔵写真をご紹介!↓

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出家した身の喜撰法師が、祇園のウエイトレス美女に一目惚れしてちょっかい出す、というウキウキした内容。(右:お梶=花柳美嘉千代先生。左:喜撰法師=美嘉千代先生のお母様である花柳嘉晁先生)

やがて、大勢の所化(坊主)たちが、「おししょーさまー!おししょーさまー!」と言いながら、喜撰法師を迎えにやって来ます。

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私も大勢の所化のひとりとして踊りました(左)。昔々は「一休さんみたいな格好するの恥ずかしい、ヤダ」なんて思ってましたが、一度やったら楽しすぎた(笑)! また所化コス、やりたいです。所化役が必要な方、いらっしゃったらぜひお声かけてください(笑)!




と、話は戻って。

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三味線を触ってみようコーナーでは、三味線体験も! 長唄系だから、やっぱり細棹! しかし、私、むーかーしむかしの大学時代、箏曲部で三味線やってたのですが、あの頃はツボ(音階ごとに三味線の弦を押さえる位置)も覚えてて『萬歳』とか弾けたのに、何ひとつ覚えていない…。この写真でも、手の位置間違ってる…(バチはもっと、三味線の枠(端)ギリギリのところで弾くものだそうです)。





そんなわけですが、日本伝統文化ワークショップ「LOTUS 伝統文化の持つ力」、今年も参加させていただき、とても楽しかったです。そして、いらっしゃってくださった皆様、ありがとうございました!

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(使用した写真はほとんど、LOTUSの香田様撮影のものをいただきました。ありがとうございました!)


あ。「牡丹の花」+「少しの毛」=「これは獅子です」については、書く時間がなくなってしまったので、、次の記事で書きたいと思います〜!




—— 関連記事 ——


■ 2015年の記事 
3/14「伝統文化の持つ力」@増上寺:日本舞踊ワークショップのお知らせ。
■ 2014年の記事 
5/11 「伝統文化の持つ力」@増上寺:日本舞踊ワークショップのお知らせ。
■ 2013年の記事 
8/31 「伝統文化の持つ力」@三溪園:日本舞踊ワークショップのお知らせ。
■ 2012年の記事 
9/2 三溪園でのチャリティイベント「伝統文化の持つ力」のお知らせ。もしくは、近代の「数寄者」について。

■「LOTUS 伝統文化の持つ力」を主催していらっしゃる、茶人の松村亮太郎さんの茶道サロン
SHUHALLY(守破離)・文彩庵

■ 徳川将軍家の菩提寺だった、増上寺(港区芝)
増上寺

3/14「伝統文化の持つ力」@増上寺:日本舞踊ワークショップのお知らせ。


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花粉症が始まりました! ついに春到来です! 寒くて死にそうだった冬が終わりそうで、本気でホッとしてます…。

いやもう、「関東の冬」って寒いですよねー! というか、「関東の家」って、異常に寒いですよね?! 特に私が住んでいるマンションはガスファンヒーターが使えないため、「エアコン」と「電気毛布」だけが暖房器具……ホントに辛かったです(涙)。なんて言うと雪国の方に怒られそうですが、でも寒い地域はそれなりに断熱住居が標準だったりしますよね? でも、東京ってペラペラなんですよ〜〜家が(標準的な賃貸が)! 昔、冬に寒いベルリンから来たドイツ人を泊めたことありましたが、ガチガチ震えてましたね…。すごい貧しい家に泊まっちゃったと思ったでしょうね…(涙)。



なんていう寒くてツライ冬を蹴散らして、春のイベントのお知らせです! 2012年、2013年、2014年に引き続き、今年も、東日本大震災支援チャリティイベント 日本伝統文化ワークショップ「LOTUS 伝統文化の持つ力」が開催されます! 今年も花柳美嘉千代師匠の日本舞踊ワークショップのお手伝いをさせていただく予定です。

今回、鑑賞&体験できる伝統文化は、日本舞踊、三味線(荻江節)、茶道(裏千家)、煎茶道、台湾茶道、書道、華道、香作、和菓子、水引、砂子、ベリーダンス、詩の朗読、怪談話

会場は、去年に引き続き、東京・芝の「増上寺」です! 東京タワーの近くの、プリンスホテル隣の、あの増上寺! 上野寛永寺に並ぶ徳川将軍家の菩提寺であり、『忠臣蔵』で吉良上野介が浅野内匠頭にイジワルをしたエピソード(朝廷からの勅使が増上寺を参詣するに際して、畳替えをしなきゃいけなかったのに、そのことを吉良が浅野にワザと教えず、浅野に恥をかかせようとした…というエピソード(史実かどうかは不明))でも有名な増上寺ですよー! 意外と、東京にいてもわざわざ行かなかったりするし、普段は中まで入れなかったりもするので、この機会にぜひに!




東日本大震災支援ワークショップ
LOTUS TOKYO 伝統文化の持つ力


【日時】
3/14(日) 
9:30 open 〜 17:00 close


【プログラム】
日本舞踊ワークショップ
 【第1回】 11:00~12:00 鑑賞&体験
 【第2回】 13:00~14:00 鑑賞&体験
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【場所】
増上寺 光摂殿・増上寺会館
※交通アクセス&MAPについては⇒コチラ
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【参加費用】
前売チケット 1,000円(税込)
※講堂(3F大広間)で行われるプログラム(日本舞踊・三味線・詩の朗読・怪談・ベリーダンス)の全てにご参加いただけます。
※そのほかのプログラムについては、サイトの各ページより、各チケットをご購入ください。


【前売チケットご購入方法】
チケットの詳細については⇒コチラ
※前売チケットの販売は、決済サービス「SPIKE」によるクレジット決済のみです。当日券の販売はございません。
※前売チケットの販売は、3/13(金)20:00 までです。


■公式サイト「LOTUS TOKYO 2014 伝統文化の持つ力
■Facebookページ⇒コチラ
■2013年の様子⇒コチラ
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■当イベントを主催されている、茶人の松村亮太郎さんの茶道サロン「SHUHALLY(守破離)・文彩庵」(横浜市中区)








昨年2014年5月に、増上寺の3F大広間で開催された「日本舞踊ワークショップ」のようすです♪



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去年は、『京鹿子娘道成寺』のクドキの部分を踊りました。「クドキ」とは、心情を吐露したり訴えたりしたりする部分のことで、ここでは「娘のせつない恋心」を表します(せつない恋心ってなんだっけ?な私には、難関部分です笑)。この手ぬぐいは、普通の木綿の手ぬぐいではなく、花柳流の紋を染めた、踊りの小道具としての絹の手ぬぐいです。かなりズシッと重みのある縮緬なので、結構なお値段がいたしますです…(えーと、ざっと25000円ほどかな。。)




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『鷺娘』の踊りの小道具である傘を使った部分を、3人で踊りました(左から、私、美嘉千代先生、嘉乃千鳥さん)。『鷺娘』は普通は1人で踊りますが、師匠が3人用に踊りをアレンジしてくださいました。「恋に心もうつろひし 花の吹雪の散りかかり 払ふも惜しき袖傘や 傘をや 傘をさすならば てんてんてん日照傘〜♪」と、傘づくしの長唄に合わせて踊ります〜。

ちなみに、この大広間の襖絵は、江戸琳派の流れを継承する日本画家・岡信孝(川端龍子の孫にあたる方)による「清香天華図」(せいこうてんげず)という作品だそう。




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鑑賞コーナーの後は、皆さん1人1人に舞扇をお配りし、童謡『さくらさくら』の踊りを体験していただきました! 最初は舞扇を開けなかった(実は開くのにもコツが要るのです)皆さんも、体験コーナーが終わる頃には、舞扇をヒラヒラさせていらっしゃいました〜。

体験の後は、日本舞踊の小道具(舞扇や藤の枝、傘など)を自由に持って、写真撮影をしていただけますので、ぜひお子様やお友達とご参加ください♪





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そして圧巻なのが、増上寺の大広間の格天井の天井絵!!! この大広間の格天井には、小倉遊亀上村松篁上村淳之加山又造…等々、120名の日本画家による「四季の草花」を描いた作品が嵌めこまれていて、圧巻。必見です! 誰の絵がどこに嵌めこまれているか?をしっかり確認したい方は、増上寺のコチラのページをプリントアウトしてお持ちいただくのがよろしいかと♪ 

ちなみに、先ほども言及した、この大広間の襖絵を描いた、岡信孝画伯(川端龍子の孫にあたる方)。ちょっと調べてみたら…、長野県の須坂にある「須坂クラシック美術館」のコレクション=岡信孝のコレクション、だったそうではないですか!! 長野県・須坂については、以前「長野須坂「豪商の館・田中本家」に行ってきました! 〜婚礼衣裳としての打掛けについて。」に書きましたが、蔵や古い建物の残るレトロな雰囲気の町。ブログには書きませんでしたが、「須坂クラシック美術館」も行ってきました。というのもこの美術館、大正・昭和初期の着物、とくにモダン味あふれる銘仙(カラフルな色彩にグラフィカルな柄の銘仙)のコレクションでとっても有名なんです。それら民芸品のコレクションが、岡信孝氏の寄贈だったそうで…。そんな方の作品の前で踊らせていただいていたとは。着物好きとしては、感無量…。





そして、花柳美嘉千代師匠をご紹介! 

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こちらの画像は、一昨年、「花比古会」@国立劇場で『子宝三番叟』を踊られた時に、個人的に撮影させていただきました。

明るくて優しくて綺麗な、自慢の師匠です! もちろん、踊りもとっても素敵です〜! 花柳流師範20年のベテランの先生で、教え方もとっても分かりやすいです。あ、恐くないですよ〜!(世間では「日舞の先生=コワイ」というイメージがあるらしいですが、美嘉千代先生に限っていえば、超絶・優しいです笑!)


そんなステキな美嘉千代先生の「日本舞踊ワークショップ」、ぜひこの機会に、体験してみてくださいね!





—— 関連記事 ——


■ 2014年の記事 
5/11 「伝統文化の持つ力」@増上寺:日本舞踊ワークショップのお知らせ。
■ 2013年の記事 
8/31 「伝統文化の持つ力」@三溪園:日本舞踊ワークショップのお知らせ。
■ 2012年の記事 
9/2 三溪園でのチャリティイベント「伝統文化の持つ力」のお知らせ。もしくは、近代の「数寄者」について。




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