井嶋ナギの日本文化ノート

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秋講座:早稲田大学オープンカレッジ「名作映画に描かれた日本の美と享楽の世界 〜歌舞伎、浮世絵から、任俠、花柳界、戦前モダン文化まで」のお知らせ


お知らせです。春・夏に引き続き、秋も早稲田大学オープンカレッジにて講座を行います! 題して、


「名作映画に描かれた日本の美と享楽の世界 〜歌舞伎、浮世絵から、任侠、花柳界、戦前モダン文化まで」


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今回の秋講座のテーマは、日本映画 × 日本文化、です。一言で言えば、昔の名作日本映画を見ながら、教科書では教えてくれない日本文化について学んでみませんか? という講座です。

…で、教科書では教えてくれない日本文化、って何だ? というと、えーと、つまり、良俗に反してたり、反社会的だったり、いかがわしかったり、エロかったり、ミーハーだったり、というような文化のことです…。とても人気があってポピュラーだった文化でも、そうしたある意味でいかがわしいような文化は、教科書にはなかなか載りません(100年以上経ったら載るかもしれませんが…)。そこで、今回の講座では、「歌舞伎」「浮世絵・吉原」「花柳界」「任侠世界」「戦前モダン文化」の5つの日本文化を選んでみました。

実は、上記の5つの日本文化って、映画やドラマやお芝居やら小説やら漫画などのエンターテイメント作品では、非常に「おなじみの世界」なんです。それなのに、その世界のシステムやルール、起源や歴史、文化や習俗については、私たちはあまり分かっていなかったりする。当然ながら、学校や教科書では教えてくれないし、親にもちょっと聞きづらい(笑)。そのため、何となく作品を見てもモヤモヤ感が残ったりするんですよね…。

というわけで、そんな今までのモヤモヤ感を、一気に解消しちゃいましょう! というのがこの講座の趣旨です。もちろん、その背景世界について詳しいことを知らなくたって、映画やドラマを楽しむことはできます(ただし良い出来の作品の場合)。でも、背景文化を知っていたほうが、より理解が深まるし、より楽しめるのではないでしょうか? また、特に今までモヤモヤしてたわけじゃなくても、「これから昔の日本映画をいろいろ楽しみたい!」とか「映画をネタにして日本文化についていろいろ学びたい!」とか、そういう方も大歓迎です。


個人的な話をすれば、私は、高校生のときから古い日本映画の虜になってしまい、その後、20年以上、名画座に通いつつ古い日本映画をずーっと見続けてきました。拙著『色っぽいキモノ』にも書きましたが、キモノの魅力に目覚めたのも、古い日本映画がきっかけでした(→正確に言えば、『鬼龍院花子の生涯』が決定的でした!)。そうした古い邦画を次々と見ているうちに、やたらと映画の背景になっている、吉原とか、花柳界とか、任俠世界とか、って、一体なに? と思うようになったんです。そういうこともあって、大学では、江戸文学を専攻することになったのですが。それにしても、ほんの50年前の映画なのに、こんなに未知の世界が描かれているとは……と、不思議に思ったものです。

だいたい、そもそもなんですけど、一体、なんで、1970年代にあんなに任俠映画が流行したんだ?! とか(笑)。学生時代、藤純子主演の任侠映画を見て泣きながら、一方でずっとモヤモヤしてましたね…。私の見ているコレは一体何なんだろう、と。

あ、そうそう、今回の講座の目玉は、「任俠世界」の回です!(と、勝手に自分で思ってるだけですけど) 例えば、任侠ヤクザ世界が(江戸時代〜近代を通して)どのように変化していったのかとか、1970年代に流行した任侠映画とは何だったのかとか、また、似たようなタイトルばかり並ぶなかで最低限見るべきものはどれかとか、はたまた、女博徒のカッコイイ粋なキモノファッション考! などなど、暑苦しく追究したいと思っております!!(ちなみに、トップに掲載した画像は、『日本女俠伝 俠客芸者』の藤純子さまです!)


というわけで、みなさま、秋の土曜のお昼に、日本映画と日本文化をじわじわ味わってみませんか? ぜひぜひ、お気軽にご参加いただけたら嬉しいです…!




「名作映画に描かれた日本の美と享楽の世界 〜歌舞伎、浮世絵から、任侠、花柳界、戦前モダン文化まで」

【日程】10/03(土), 10/17(土), 10/31(土), 11/14土), 11/28(土)
【時間】15:00~16:30(90分)
【場所】中野校キャンパス →MAP
    (JR中央線・総武線、メトロ東西線「中野駅」徒歩10分)
詳細はコチラ

【講義目標】
名画座やDVD・衛星放送などの普及により、古い日本映画が改めて注目されている昨今。日本映画に好んで取り上げられてきた背景文化を知ることで、より深く作品を楽しむと同時に、過去の日本人が憧れた大衆文化の姿を再認識したいと考えています。

【講義概要】
過去の日本映画において重要な、「歌舞伎」「浮世絵・吉原」「花柳界」「任侠世界」「戦前モダン文化」の5つの背景文化を取り上げ、その歴史や文化、映画史上での位置付けについて等々、幅広く考察していきます。毎回、DVDや未ソフト化の貴重映像などを鑑賞しながら進める予定です。


【各回の講義内容】
10/03 【歌舞伎】歌舞伎の影響、歌舞伎役者の活躍
           〜『紅葉狩』『雪之丞変化』ほか
10/17 【浮世絵・吉原】人気浮世絵師と吉原遊郭
           〜 『写楽』『歌麿をめぐる五人の女』ほか

10/31 【花柳界】芸者と遊女、その歴史と生活
           〜『日本橋』『夜の波紋』『廓育ち』ほか

11/14 【任俠世界】俠客、博徒、そして女侠客
           〜『次郎長三国志』『緋牡丹博徒』ほか

11/28 【戦前モダン文化】昭和初期のモダンガールと都市
           〜『淑女は何を忘れたか』『金環蝕』ほか




【受講費】
「早稲田大学オープンカレッジ」会員の方 11,826円
「早稲田大学オープンカレッジ」会員ではない方(ビジター) 13,608円

★「早稲田大学オープンカレッジ」会員について
・会員の有効期限は、入会年度を含めて4年度間(3月末日まで)
・入会金8,000円
・入会金6,000円の特例あり(早稲田大学卒業生、早稲田大学在学生父母、東京都新宿区・中央区・中野区に在住・在勤の場合ほか)
・会員にならずにビジターとしての受講も可能です
・詳細はコチラ

【定員】30人
【申込受付】一般・ビジターともに、受付中。
【申込方法】Web、Tel、Fax、各校事務所窓口
・詳細はコチラ







—— 関連記事 ——


■ 「キネマ旬報」にて、若尾文子作品のキモノについて書いております。
■ 映画『小さいおうち』のパンフレットに寄稿しました。 〜もしくは、昭和モダンの装いについて。


■ 春講座:早稲田大学オープンカレッジ「歌舞伎で読み解く着物ファッション 〜花魁、芸者から御殿女中、町娘に悪婆まで」のお知らせ
■ 早稲田大学オープンカレッジ 講座「着物で読み解く名作日本文学 〜夏目漱石から、泉鏡花に永井荷風、有吉佐和子まで」のお知らせ
■ 早稲田大学オープンカレッジ 講座「人物像で読みとく着物ファッション」についての、レポートです。
■ 早稲田大学オープンカレッジ 講座「人物像で読みとく着物ファッション 〜花魁、芸者から町娘、モダンガールまで」のお知らせ
■ アサヒアートスクエアで「江戸OL着物トークショウ」を行いました。

夏講座:早稲田大学オープンカレッジ「江戸のラブストーリー「人情本」に見る、江戸娘の着物ファッション」のお知らせ 〜『春色梅児誉美』を読んでみませんか?


お知らせです。春に引き続き、夏も早稲田大学オープンカレッジにて講座を行います! 「魅惑の都市・大江戸の食と娯楽」という、全5回のオムニバス講座のなかの、1回を担当します。
(下画像は、マイコレクションの『春色梅児誉美』全12冊。約180年前の和本です。)

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私が行う講座は、9/3「江戸のラブストーリー「人情本」に見る、江戸娘の着物ファッション」。

人情本とは、江戸時代後期に流行した恋愛小説ジャンルのこと。いきいきとした会話、繊細な心理描写、また、ファッションについての細かな記述や、流行事物を積極的に取り入れた内容で、当時の人々の生活を知るのに最適です。

人情本のなかでも、最大のベストセラーとなったのが、『春色梅児誉美(しゅんしょく うめごよみ)』(天保3〜4年(1832-33) 為永春水)。『春色梅児誉美』は、江戸時代のみならず、幕末から明治・大正・昭和初期にかけて長く親しまれ、日本の近代文学(特に花柳文学)大きな影響を与えました。永井荷風の『新橋夜話』のなかの傑作『風邪ごこち』でも、丸の内の会社をドロップアウトして芸者のヒモをしている男が『春色梅児誉美』を愛読している描写があるほど(→詳しくは、拙著『色っぽいキモノ』P44をご覧ください)。

江戸人のみならず近代人の心までを虜にした、江戸後期の人情本『春色梅児誉美』を読みながら、江戸後期のオシャレや恋愛事情、花柳界事情などを読み解いてみませんか?

今回は、マイコレクションである約180年前の和本『春色梅児誉美』全12冊をお持ちする予定です!!(上画像) ぜひお気軽にご参加くださいませ♪ 




魅惑の都市・大江戸の食と娯楽

【日程】7/23(木), 7/30(木), 8/6(木), 8/27(木), 9/3(木) 
【時間】13:00~14:30(90分)
【場所】中野校キャンパス →MAP
    (JR中央線・総武線、東京メトロ東西線 「中野駅」徒歩10分)
詳細はコチラ

【講義概要】

豊かな衣食文化や芸能が花開いた粋な江戸時代の暮らしを、「食」と「娯楽」という視点から体感する講座です。現代に受け継がれる「料理」「浪曲」「落語」「三味線」「着物」各分野の講師陣がオムニバス形式で楽しみ方をお伝えします。思わず誰かに話したくなる、大江戸の魅力に触れてみましょう。


【各回の講義内容】

7/23(木) 江戸の料理と養生の知恵
講師:大久保洋子((一社)日本家政学会食文化研究部会長、実践女子大学元教授)
ファストフードのルーツは江戸時代ともいわれ、外食が発展した江戸時代の食文化には、現代を生きる私たちに示唆を与える要素もたくさんあります。和食が完成した江戸時代の庶民の食生活を知り、江戸の料理と養生の知恵についてお話します。



7/30(木) おいしい浪曲の愉しみ
講師:布目英一(月刊浪曲編集人、横浜にぎわい座企画コーディネーター)

「江戸っ子だってねえ」「神田の生まれよ」「飲みねえ、寿司を食いねえ」これは誰もが知っていた名文句、もとは広沢虎造の浪曲です。浪曲、落語、歌舞伎などに登場する食べ物は作品の内容を身近に感じさせる効果があったようです。実際にそれらの作品を鑑賞しながらその効果を探っていきましょう。



8/6(木) 江戸の庶民芸能「落語」を探る

講師:瀧口雅仁(芸能史研究家、恵泉女学園大学講師)
落語は江戸の文化人が興した、江戸の粋が凝縮された芸能です。どんな人達がどんな形で落語を生み、そしてそれをどう伝え、広めていったのか。烏亭焉馬、初代可楽、圓朝といった落語家の芸と業績を考証しながら、江戸と落語の深い関係に迫っていきます。


8/27(木) 江戸三味線の世界

講師:宮澤やすみ(神仏研究家、小唄師範)
端唄、都都逸(俗曲)、小唄など、江戸ならではの粋な三味線の世界を、実演を交えてご紹介します。三味線の古典である長唄や上方三味線などとの楽器の違いにも触れながら、風流江戸好みの音色の特徴とその世界観に触れてみましょう。



9/3(木) 江戸のラブストーリー「人情本」に見る、江戸娘の着物ファッション

講師:井嶋ナギ(着物研究家、文筆家)

江戸後期に流行したラブストーリー「人情本」は、ヒロインたちの衣裳の描写が非常に詳しく、当時の着物の流行を知るのに最適です。恋愛物語の面白さも味わいながら、江戸娘のおしゃれを読み解いていきましょう。




【受講費】
「早稲田大学オープンカレッジ」会員の方 11,826円
「早稲田大学オープンカレッジ」会員ではない方(ビジター) 13,608円

★「早稲田大学オープンカレッジ」会員について
・会員の有効期限は、入会年度を含めて4年度間(3月末日まで)
・入会金8,000円
・入会金6,000円の特例あり(早稲田大学卒業生、早稲田大学在学生父母、東京都新宿区・中央区・中野区に在住・在勤の場合ほか)
・会員にならずにビジターとしての受講も可能です
・詳細はコチラ

【申込受付】一般・ビジターともに、受付中。
【申込方法】Web、Tel、Fax、各校事務所窓口
・詳細はコチラ





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■ 早稲田大学オープンカレッジ 講座「人物像で読みとく着物ファッション」についての、レポートです。
■ 早稲田大学オープンカレッジ 講座「人物像で読みとく着物ファッション 〜花魁、芸者から町娘、モダンガールまで」のお知らせ

■ アサヒアートスクエアで「江戸OL着物トークショウ」を行いました。

■ 山形県「広重美術館」「清風荘」でトークイベントを行います。
■ 山形でトークイベントを行いました。その2 ~「ファッションとしてのモダンキモノ史」についてなど。

幽霊と、月影屋の浴衣と、粋について。


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梅雨で涼しい日が続きますが、夏目前。夏と言えば? そう、幽霊ですよね!

(上画像は、「月影屋」による2009年発表「幽霊の浴衣」の柄一部です)

子ども時代、夏に幽霊さんは憑きもの…じゃなかった、付きものでした。というのも、夏は必ず、石川県の祖父母の家に行っていたからです。

そこは、まさに「日本昔ばなし」に出てくるような田舎&家でした。田園風景のなかの陸の孤島のような集落、その集落のなかの竹やぶに面した、築百年以上の古くてだだっ広い日本家屋。そんな家に、幽霊さんがいないわけがありませんよね? 離れにあったトイレに行くのなんか、命がけ。トイレに行くまでに、ご先祖の遺影のかかった巨大な仏壇のある部屋だとか、獅子頭の歌舞伎人形のいる部屋だとか、般若の能面が見下ろす部屋だとか通過しつつ、その間にも、畳はミシミシ鳴るわ、ガラス窓はガタガタ言うわ、電球のまわりで蛾がバタバタ羽ばたくわ、突如、古い掛け時計が、ボーンボーンと鳴るわ、恐怖音満載。

で、また、祖母(母方)が怪談話の名手でして、『番町皿屋敷』や、地獄に落ちた人間どもの阿鼻叫喚のようすなど、孫たちを集めてかなり詳細に語ってくれたものです。ある時、私が布団の上の枕を踏んづけたのを見とがめた祖母が、「枕を踏むと、足が腐って、歩けなくなるぞいね…」(←あやふやな能登弁)と話し出した時は、いつ自分の足が腐り始めるのか、その後一週間くらい恐怖におののいてました(涙)。

そんな原体験があったゆえか、小学生のときに父に与えられた『春雨物語・雨月物語』をこわごわ読み、さらに長じては泉鏡花の『眉かくしの霊』『雪柳』などの恐怖譚を愛読、大学の卒論では鶴屋南北の『東海道四谷怪談』を選ぶに至り、幽霊さんとはすっかり仲良く(?)なりました。特別ホラーが好きってわけではないですが(楳図は好き)、日本の幽霊さんは、なんだか哀愁滑稽味がうっすら漂っているところが、好きです。





そんな前置きをしておいて、「浴衣」の話です。


皆さま、「月影屋」の2015年新作浴衣を、ご覧になりましたか? 


なんと、テーマが、「う〜ら〜め〜し〜や〜〜!」です!!!(笑)
 



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ぎゃーーーッ! 出たーーーー!!!!!!!


……っていうか、この幽霊さん、「月影屋」の店主&デザイナー・重田なつきさんですが(笑)。いや、ほんと、スゴイ浴衣ブランドだなー、「月影屋」。


今年の「月影屋」には、素敵な幽霊さんがたくさん現れているようですよ〜! 何はともあれ、毎年楽しみにしている、素晴らしくユニークかつアーティスティックな「月影屋」新作浴衣イメージフォトをどうぞ!(撮影:和多田アヤさん)



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以上、もっとゆっくり大きな画面で見たい方は、コチラへどうぞ! また、以上の商品を通販で買いたい方は、コチラへどうぞ!! はたまた、単純に「月影屋、スゲーな(笑)!!!」と思った方も、コチラへどうぞ!!!



ホント、こんな浴衣ブランド、なかなかないですよねー! もう以前から拙ブログで「唯一無二の浴衣ブランド」と書いてきましたが。何しろ、「カッコイイ」と「セクシー」と「ハイセンス」と三拍子揃ってる上に、「ユーモアセンス」や「KY的豪胆さ」まで兼ね備えているという、まるで「理想の男」みたいな感じです(笑)。

私が初めて「月影屋」の浴衣に出会ったのは、10年ほど前、まだなつきさんが「ヨコシマの浴衣」を作られたばかりの頃だったのですが、「きゃー、なんて粋な浴衣だ!」と、その場で即買い(私にしては非常に珍しい)。それから、年々、年々、パワーアップされていて、今年の「う〜ら〜め〜し〜や〜〜!!」に至っては、予想だにしなかった展開…。今じゃ、「粋(いき)」とかいう域なんか、かる〜〜く超えています(笑)。



あ、ちょっと話は脱線しますが。「粋(いき)」っていうのは、ものすっごく微妙な領域だと思うのですよ。「粋(いき)」という概念を、水戸黄門の印籠よろしくふりかざす人は、わりと、要注意かと私は思ってます(笑)。というのも、「粋」って、自分で主張しちゃうと、もう「粋」じゃなくなるんですよー。権威としての「粋」をふりかざした時点で、それは全く「粋」ではない。そのくらい、「粋」っていうのは、微妙な、狭い領域の、語弊を恐れずに言えば、ある意味で、ケチな、負け犬の遠吠え的なものと紙一重の、概念だと思います。言うなれば、一昔前の「サブカル」みたいな感じというか、サブカルが権威になっちゃったら、それはサブカルではない、っていうのと同じで。えーと、詳しくは九鬼周造『「いき」の構造』をお読みください(「粋とは、負け犬的な、サブカル的な、概念である」とは書いていませんが笑)。

そういう「粋(いき)」っていうのは、江戸文化とかキモノなんかを好きになると、一度は憧れるのですが、「粋」というのは、もしかして徐々に乗り越えていくべき領域なのかもしれない、と最近思ってます。いつまでも「粋」にとどまっていると、 実は発展がないかも。とも、思うんです。逆に言えば、発展することを押さえつけられていた人たちの、最後のギリギリの反骨精神の現われ、負けるが勝ち的な「価値基準の転倒」が、「粋」という美意識でもあると思うのですね。そういう意味では、どうしてもいつもマイノリティになってしまう自分としては(笑)、やはり本心では、「粋」って、哀しくも愛おしい美意識だなぁ、とも思ってしまうのですが。



なんて、ちょっと脱線しましたが。

そんなわけで、今年の「月影屋」は、スゴイな、と。しみじみ思いました。ここまで来ると、粋かどうかなんて問答を持ちかけようものなら、

「エッ? わっちが粋かどうかッて? 
おきゃあがれ! 粋が怖くて、息が吸えるかいッ!

てな返答をされてしまいそうです(笑)。






で、さらにさらに。この「月影屋」の「う〜ら〜め〜し〜や〜〜!!」と、なにかどこでどうビビッと繋がったのか、東京芸術大学美術館で、なんと「うらめしや〜、冥土のみやげ」展が開催されるとのこと! なんというシンクロニシティ…。

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この展示会で公開されるのは、『牡丹灯籠』『真景累ヶ淵』などの怪談噺で有名な円朝先生による、幽霊画コレクション。このコレクションは、普段は谷中の「全生庵」にて所蔵されていて、毎夏「全生庵」で公開されていたのですが、今年は東京芸術大学美術館で公開! 円山応挙、河鍋暁斎、月岡芳年、伊藤晴雨、柴田是真、鰭崎英朋……と、浮世絵・美人画ファンにはたまらないラインナップ。

遠方で行けない方は、↓この『幽霊名画集 全生庵蔵・三遊亭円朝コレクション』(辻惟雄監修 ちくま学芸文庫)がオススメ! 私も愛蔵してます。

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この「全生庵」の円朝コレクションにプラスして、東京国立博物館の上村松園「焔」や、福岡市美術館の円山応挙「幽霊図」なども展示されるもよう。7/22〜9/13まで。これは楽しみ!


ぜひ今年は、「月影屋」の「うらめしや〜」な浴衣を着て、「うらめしや〜展」に行って、幽霊さんと交流を深めたいと思っております♪ みなさんも、ぜひ!




—— 関連記事 ——


■「月影屋」2015年の浴衣ショップ情報(原宿ラフォーレ、新宿destination、福岡H.P.DECO、松本セルティなど)→コチラ


結構、歴史を感じる、これまでの月影屋&浴衣関連記事。

■2014年:「「月影屋」浴衣で夏祭りへGOの巻★ もしくは、浴衣の形式昇格について。
■2013年:「youtube動画『井嶋ナギの浴衣講座』 〜「浴衣って何?」の巻、「月影屋にGO!」の巻
■2012年:「2012年「月影屋」新作浴衣&ラフォーレ原宿SHOPレポート!
■2011年:「緊急レポート☆2011年「月影屋」新作浴衣!!!
■2010年:「着付け講座in月影屋のレポートと8月開催のお知らせ
■2009年:「早くも浴衣計画始動! ~月影屋の新作浴衣とお金問題」「速報! 月影屋新作浴衣グラビア発表!!! 題して、「火傷すんなよ、ヨロシク。
■2008年:「2008年夏、浴衣決算報告!
■2007年:「お祭りと現代浴衣考

「キネマ旬報」にて、若尾文子作品のキモノについて書いております。

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梅雨ですね。…と書きつつも、前置きナシにお知らせです!

現在発売中の「キネマ旬報」(2015年6月下旬号 No.1690)若尾文子さま特集にて、若尾文子作品におけるキモノについて寄稿しております。



6/27(土)から開催される「若尾文子映画祭 青春」に合わせて、キネマ旬報では若尾文子さまを特集! さすが老舗雑誌だけあって、過去の(リアルタイムでの)文子さま記事や、文子さまグラビア、文子さまエッセイなどの貴重な再録、または、現在の文子さまへの30の質問(インタビュアーは五所純子さん)も読みごたえたっぷり。

そんな特集のなかの、「若尾文子が銀幕でみせた洋装/和装」ページにおいて、私が和装担当ということで、キモノ文子の魅力と楽しみ方について書いております! ちなみに、洋装編は中野翠さんです…!(大ファンです)


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上記のように、かなりレアなキモノ文子写真も、たくさん掲載されてます。特に、文子さまの角隠し花嫁姿の写真、美しくて異次元…。とにかく、ウットリしまくりの永久保存版! 書店で、もしくはネット書店で、ぜひぜひお求めくださいませ。



ところで、若尾文子さまはキモノ姿が多い、という印象ありませんか? 私はありました。今回、コラムを書くにあたって、改めてたくさんの「キモノ文子」(と、呼んでます笑)をひとつずつ確認してみたのですが、実際にホントに多かったです(と言っても、そもそも昔の日本映画自体キモノ率が高いので、一概に若尾文子作品だけが多いというわけではないかもしれませんが)。

今回の若尾文子映画祭では、60作品(!)が一挙上映されます。そのうち、私が見たものを数えてみたら46作品。で、さらにその私が見た作品群のうち、「キモノ文子」が登場するのは36作品、と、やはり結構な数になりました。……そんなわけで、今回コラムを書くにあたって、コツコツ集めてきた映像を、来る日も来る日も見続け、「キモノ文子」のコーディネートやらシチュエーションやらをチェックし、気になるシーンを写メりつつ、リストを作成し…って、もはや単なる趣味ですね(笑)。ええ、楽しかったです!(笑)

にしても、こんな素敵なお仕事をいただけて、感無量です。思えば、名画座通いをし続けて、20数年…。若尾文子作品を見た一番最初は、記憶の限りでは、池袋の文芸座(旧)で見た『日本橋』だったような。その後、増村作品で若尾文子の魅力にヤラれ、うわ言のように「若尾文子ぉ〜若尾文子ぉ〜若尾文子はいねが〜」とつぶやきながらあちこちのレンタルビデオ屋にゾンビのように出没しては借りまくり、くり返しくり返し見る在宅な日々(19〜25歳)。そんな不毛と言い切りたくなるような努力(?)がチョコっとでも陽の目を見れたかと思うと、泣けてきました。

とにかく、「大映」ものが好きで好きで。というのも、物心つくかつかないかの頃に「赤いシリーズ」を親と見て「ドラマチックの意味」を学び、小学生の時に『不良少女と呼ばれて』など一連のドラマに夢中になって「人生の方向性」を決定づけられた私としては、完全に「大映」ものにハマる下地が作られていたわけです(笑)。大学生になって、若尾文子、田宮二郎、西村晃、船越英二、雷蔵、などの出演作に条件反射的にヨダレが出てしまったのは、運命というか、宿命というか、要は「スリ込み」だよなーと思うわけです。

幼少期のスリ込みって、ホント大事ですね!(←結論)





若尾文子映画祭 青春
 角川シネマ新宿にて、6/27(土)〜8/14(金) 60作品を一挙上映!

前売りチケットがオシャレ!

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前売りチケットの特典ポストカードがすばらしい!

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—— 関連記事 ——


むかーし(10年くらい前?)、ブログ「放蕩娘の縞々ストッキング!」で書いた若尾文子映画&大映映画レビューなどなど。
■ 「【映画】 『獣の戯れ』~「文子的・奥さん文化」のススメ
■ 「【映画】 『その夜は忘れない』
■ 「【映画】 『夜の素顔』
■ 「【映画】 『複雑な彼』

「牡丹+毛=獅子」の謎、もしくは『石橋』について。

桜が満開ですね! …という桜とは全く関係なく、前回の記事で時間がなくなってしまったので次回、と書いた『「牡丹の花」+「少しの毛」=「これは獅子です」』の公式について。



前回の記事にも書きましたが、先日のLOTUSイベント@増上寺で、常磐津舞踊『東都獅子』(一部)を踊ったのですが、その際に「扇獅子(おうぎじし)」という小道具を使用しました。この小道具、実は、「獅子」なんです!

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…え、どこが? ですよね(笑)。扇を二枚重ねたものの上に、造り物の「牡丹の花」と「少しの毛」があしらわれているのですが、この「牡丹の花」+「少しの毛」=「これは獅子です」という公式がありまして…。(小道具は私のものではなく、花柳美嘉千代先生の私物です)



歌舞伎が好きな方にとっては常識ですが、歌舞伎舞踊(日本舞踊)には「獅子もの」という一大ジャンルがあります。その中でも、『連獅子』や『鏡獅子』なんかは非常に有名で、まるで歌舞伎の代名詞のようになっていますよね。歌舞伎のことなど全く知らなかった子供の頃、祖母の家に、隈取りした顔に白い毛の頭の『鏡獅子』の人形があって、「何だこれ…コワイしダサイ」と思ってましたが(笑)。

そんな『連獅子』『鏡獅子』のような超有名演目でも、成立は実はそれほど古くはなく、幕末・明治時代以降。近代化する日本において生き残るため、歌舞伎が「高尚化」していかざるを得なくなり能・狂言から題材を得た「高尚で典雅なフンイキの演目」が次々と作られるようになった中で、生まれたものでした。そうした「獅子」が登場する「獅子もの」の原作となったのが、能の『石橋』です。(いしばし、ではありません。しゃっきょう、です)



そんなわけで、「獅子もの(石橋もの)」のオリジナルである、能『石橋』のストーリーを、カンタンに解説しますと。




主人公は、とある修行僧。場所は、目もくらむような断崖絶壁の前。この断崖絶壁には、幅30cmくらいしかない細〜い石橋がかかっており、この石橋を渡った先のエリアは、なんと、文殊菩薩がお住まいになっている「浄土」! 

文殊菩薩がお住まいになる「浄土」を目前にした修行僧、当然、「こ、この石橋、わ、渡らばや!」(ばや=〜したい)とワナワナしていると、ある少年が現われてこう言い放ちます。「この石橋は、並大抵の人間が渡れるような橋ではありません。無理です」。が、続けて、「でもこの石橋の前にいれば、イイことあるかもよ?」と言い残して去りました。

かくして、石橋の前で待機していると… キター!! 文殊菩薩の使者である「獅子」、降臨!!!! 「獅子」は、目の前に現われたかと思うと、勇壮な獅子の舞を披露し、しばし「浄土」のありさまを見せてくれたのでした…(嗚呼、ありがたやありがたや)。




というのが、能『石橋』のお話です。若干、補足します。

補足1。「文殊菩薩」とは、知恵をつかさどる菩薩。釈迦(=ブッタ)を真ん中にして獅子に乗った文殊菩薩 & 白象に乗った普賢菩薩が脇をかためる仏像設置形式「釈迦三尊像」が有名なので、その一人である文殊菩薩も人々に信仰されていました。前述のとおり、文殊菩薩はたいてい「獅子」の上に座っており、「獅子」は文殊菩薩の使者とされていたのです。

補足2。「獅子」は、実はライオンでありません、架空の生き物である「霊獣」です(⇒こんな感じ))、長い毛がフサフサしているのが特徴で、能『石橋』でも、獅子は長い毛を頭につけています。それをマネた歌舞伎舞踊でも、もちろん長い毛をつけている…というかむしろ毛が超ロング化して、しかもその毛をブンブン振り回すのです…(能では毛は振り回しません)。

補足3。この、文殊菩薩がお住まいになるという「浄土」ですが、ここには百獣の王である「獅子」がいて、百花の王である「牡丹の花」が咲き乱れ、「牡丹の花と獅子が遊びたわむれている」という、夢のような浄土イメージがありました。能『石橋』でも、紅白の牡丹の木が登場します(⇒こんな感じ)。それをマネっこした歌舞伎舞踊でも、同様です(⇒こんな感じ)。



というわけで、獣の毛があって、牡丹の花があれば、「ああ、『石橋』の世界ね。獅子ね。了解!」というお約束ができた、というわけなのですね。

でも、『連獅子』などの歌舞伎舞踊が作られる以前の、江戸時代のころから、キモノの柄だとか調度品だとか、そういったものに「牡丹」と「毛」のモチーフを配して「はい、『石橋』の世界ですよー」っていう文化的な遊びが行われていただろうとは思います。どこで見たのか忘れてしまいましたが、武士階級の女性の打ち掛けに、そういうモチーフがあったのを見たことがあります。能は武家階級にとって大切な教養でしたから、牡丹と毛=『石橋』の獅子、っていうのは常識だったでしょうね。

ちなみに、この渦巻きのような模様も、獅子の「毛」、です!

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ちなみに言えば、江戸時代、庶民が能を見る機会というのは、普通はほとんど無かったようです。とはいえ、全く無かったわけではなく、例えば、江戸城でのお祝いごと(将軍の代替わりの時や、将軍家にお子様が誕生した時など)の際には、上級町人(町名主など)が江戸城に招かれ、「御能拝見」にあずかったとか(これを、町入能という)。

その時は無礼講とされていて、将軍が現れると「やぁ親玉!」「大将!」、老中が現れると「◯◯の守(かみ)しっかりしろ!」「ハゲ!」「白髪!」、町奉行には「馬鹿!」「マヌケ!」と、芝居小屋のような掛け声がかかったとか……いくら無礼講でも、将軍に「親玉」って(笑)。あとで「仕事人」にひっそりと殺されるんじゃ。えと、これは三田村鳶魚先生の本に書いてあったことですが、ホントなんですかね(笑)。



ま、そんなことはともかくとして。歌舞伎において、能から題材を得た演目というのは、もちろん「獅子もの」以外にもたくさんあります。「獅子もの」のほかに、「道成寺もの」(例『京鹿子娘道成寺』)、「松風もの」(例『汐汲(しおくみ)』)、「山姥(やまんば)もの」(例『山姥』)、「隅田川もの」(例『隅田川』)…と、舞踊にもお芝居にもたくさん。でも、それらは、題材は能からもらっているものの、演出や上演形式に能っぽさはなく、完全に歌舞伎化されています。

だけど、そんなかでも、『連獅子』『鏡獅子』は、ものすごくお能っぽい。衣裳(能では「装束(しょうぞく)」と言いますが)、大道具、舞台装置、動き、謡いやお囃子の感じなど、お能にそっくり! というか、「お能にそっくりにしようとしてます感」がヒシヒシと伝わってきます(笑)。こういうものを歌舞伎では「松羽目(まつばめ)もの」と呼んでいて、明治時代に入ってから次々と作られたとされていますが、これって、実際、正確にはいつからなんでしょうか? と、どんどん興味が広がって収集がつかないので、またのちほど…。




ちなみに、『東都獅子』は、明治も終わり頃の明治40年、新橋芸者によって踊られたのが初演とのこと。むかーし、花柳美嘉千代先生主催の「あやめ会」に出演した時に、衣裳をつけて『東都獅子』を踊りました。『東都獅子』の時の正式な衣裳・鬘は、こんな感じでした。(髪型は「吹輪」です!)

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