井嶋ナギの日本文化ノート

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今更ですが、大河ドラマ『平清盛』を見ましたの記。その1 〜平安時代末期と妖しい人間関係を楽しむ!

先日、とある集まりで、「楽天イーグルス優勝」と「仙台」をかけた話題が出たところ、「その楽天と仙台って何か関係があるの?」と発言してしまったが最後、20人ほどいた人々が私の周りからサーッと引いていく、という貴重な体験をしました(笑)。だってスポーツ観戦にあまり興味がないんだもんと言い訳しかけましたが、いや、それよりも、そもそも、「ことごとく時流に乗れない性分だから」ってことなのかもしれない、ということに気がついた次第。

だって、去年のNHK大河ドラマ『平清盛』に、今頃はまってるのですから! 2013年も終わろうとしているこの時期に…。


ちょっと言い訳になりますが、私はドラマを毎週見るという習慣がありません。しかも、連続ドラマを途中から見るのは避けたい派で、どうせ見るなら最初からきちんと見たいので、途中で勧められても「じゃあDVDになったら見るね」と思ってしまう派でして。『平清盛』に関して言えば、「視聴率がヤバい」「史上最低視聴率更新」というニュースを結構見ましたけど、当時、信頼できるセンス抜群の人たちが大絶賛していた(歌舞伎役者の玉三郎さんとか、「月影屋」のなつきさんとか、「なか志まや」の中島さんとか)ので、「見たらきっと面白いんだろうな。DVDになったら見たいな」とは思っていたのです。

そうして月日は流れ、つい先月。仲良しのイラストレーターのナナホさんが、「今頃だけど『平清盛』にはまってて!!」と言っているのを受け、おお、それなら私も見るっ、とDVDを借りてきてみたら……こ、こ、これは!!!! 想像を超える素晴らしさに感激し、面白くて途中でストップできず、数日で一気に全50話を見てしまい、ナナホさんとお茶しては『平清盛』談義に興じる日々(笑)。「今さらー?」と笑われるのは御尤もですが、でもDVDになってる時点で、ドラマも映画と同じように「いいものはいつ見ても面白い」という楽しみ方をしてよいと思うのです。



というわけで、放映終了から約1年。いま、改めて見る『平清盛』の面白さについて、です(笑)。

いや、見てみて初めてわかったのですが、『平清盛』の素晴らしく面白い部分こそが、「低視聴率」の原因とだったのではないか、と。視聴率を気にして「可もなく不可でもない」ものしか見せてくれなくなったTVに、貴重な時間を取られたくないがゆえ「TV離れ」しつつある世代(?)としましては、久しぶりにTV番組に刺激を受けた次第! そんな『平清盛』の「低視聴率もナットクの素晴らしい点」とは、

1. あまりなじみがなくイメージしにくい「時代設定」
2. ドロドロで淫靡で腹黒な「人間関係」
3. 極端に闇(ダークサイド)を背負った「キャラクター造形」
4. 複雑すぎてwikiってもいまだよくわからない「利害関係」

なんとまぁ、チャレンジングな!! よく作れたなぁ、しかも日曜夜のNHK大河ドラマ枠で! と感嘆せずにいられません。というわけで詳細を以下に書きます。

1. なじみがなくイメージしにくい「時代設定」について。

平清盛と聞いて、普通の人々が思い浮かべるのは、『平家物語』ですよね? そうすると何となく、「源平の戦い」のドラマのように思ってしまいますよね? でも、違ったのです。ドラマ『平清盛』は、源平の戦いが起こる「以前」がメイン。つまり、『平家物語』で「おごれる者久しからず」と言われちゃっているその「おごれる者」に、平家がいかにして成り上がったのか。そちらがメインで、みんなが大好き(?)源平合戦は、ほんの付け足しくらいなもので。

平家を滅ぼした源氏のリーダー源頼朝が、「いいクニ(1192年)つくろう鎌倉幕府」(最近では「いいハコ(1185年)つくろう」らしい)で武士政権が初めて誕生…っていうのは、確かにイメージ湧くけど、それより以前…って言われても? あ、平安時代か。そう、平安時代。でも、紫式部とか枕草子とか光源氏の時代じゃない平安時代!

…って言われると、わりと歴史好きな私も軽く思考停止します(笑)。平安時代っていうと、『源氏物語』のみやびな王朝イメージが刷り込まれていますから。でも、『源氏物語』の時代って、西暦1000年くらいなんですね(覚えやすいようにザックリですが)。そうすると、平清盛の活躍時期は、『源氏物語』から120〜150年くらい後。まぎれもなく平安時代で、でももう平安末期も末期だから、盛熟・爛熟を通り越して、停滞してよどんで、悪臭を発しはじめてるわけですよ。要は、腐ってるわけです(笑)。「え。そんな腐った平安時代なんて、考えたこともなかった…(ショック)」な人が、普通はほとんどなのではないでしょうか? それくらい、平安時代=『源氏物語』の雅びなイメージって強固だと思うんです。

実は私も、子どもの頃に父から『保元物語』『平治物語』『平家物語』(の子ども版)を読まされていて、このあたりのお話や時代は大好きなのですが、それでもこの時代が平安時代だ、という認識はほとんどありませんでした(笑)。プレ鎌倉時代、くらいの認識。人の持つイメージって勝手なものですよね…。

そんな、日本人が思い描くあこがれの「平安時代」…じゃなく、あえて退廃し腐敗した「平安時代」を舞台にした大河ドラマ、それが『清盛』! 確かに、一部の人々には違和感があったのは仕方がないのかも。でも、新しい認識を教えてくれること、新しいイメージを見せてくれること、それって素晴らしいことだと思うのです。これだけでも、私は大満足でした。



2. ドロドロで淫靡で腹黒な「人間関係」について。

何が驚いたって、第1話目から人間関係がドロドロしてること。画面が妖しいったらない(笑)。「今年の大河ドラマでも見よっか!」なんて言ってTVに向かったファミリーがいたとしたら、わりと固まりがちだったんじゃないでしょうか…。

だって、第1回目から、不倫っていうか近親相姦っていうか。「美しい妻が自分に親しんでくれない…と思ったら、なんと自分のおじいさんと妻が密通してた! それでもやっと子どもが生まれた、と思ったら、実はそのじいさんのタネだった! しかも、『…それで何か問題でも?』と自分に向かって微笑む妻」とか(笑)。

あ、夫=鳥羽上皇(三上博史)、妻=待賢門院璋子(壇れい)、じいさん=白河院(伊東四朗)、のことですけども。



白河院(伊東四朗)




以下、ある日の夫婦の会話。

待賢門院璋子
 「何ゆえ上皇様(注:夫)は…かようにミカド(注:自分たちの息子)に辛くあたられまするか? ミカドがいとしくはございませぬか?」

鳥羽上皇
 「…いとしく思えと申すか…? 我がタネではない、先の院(注:自分のおじいさんである白河上皇)の子であるミカドを…我が子のようにいつくしめと申すか!!!」

待賢門院璋子
 「それでも…おじいさま(注:鳥羽上皇の祖父・白河上皇)の子ではござりませぬか。上皇様にはおじ様に当たられる子ですから、『おじ子』、とでもお思いになればいかがです?」

鳥羽上皇
 「……(憤怒の表情でぐぬぬぬ)!!!」


…といった調子(笑)。しかし、この鳥羽上皇(三上博史)と待賢門院璋子(壇れい)の、愛と憎しみのドラマは涙なくしては見られません。最後の別れのシーンは、何度見ても泣いてしまいます。特に、三上博史の演技が素晴らしすぎて…さすが天井桟敷!! 

ちなみに、この3人(璋子と白河上皇と鳥羽上皇)の淫靡な関係は、『古事談』という説話集に記されてるそうですが、事実かどうかはわからないとか。でも、平安時代ってそういうことありそうですけどね(天皇の寵愛していた女性を、臣下の妻として下賜、ってこともよくあったし)。


こうした男女の愛憎ドロドロのほか、チラッと男色ドロドロもあったりします。藤原家のリーダー・藤原頼長(山本耕史)ですが。

ちなみに、頼長は、実際に男色家で有名な人。男色は当時の貴族の間ではとくに珍しくもないことでしたが、頼長は何でもかんでも日記にこまごま記録しちゃう人で、「今宵はあの男とどうしたこうした」といちいちメモってたという点が珍しいようで、それが『台記』として今では公けに…(泣)。でも当時の日記というのは、家族や子孫が見る前提のものなので、そういった色事を恥ずかしいこととは思っていなかったのでしょう。実際、謹厳な学者肌の人だったらしいです。山本耕史がそんな複雑な公家キャラにピッタリで、この人演技うまいですよねー。

そのほか、腹黒ドロドロ権謀術数ドロドロなど、平安末期の貴族たちの、親子兄弟のいがみ合いとか、派閥同士の陰謀とか、欲と欲のからみ合いが凄まじい。というか、それがこのドラマのメインだったような(笑)。その点が、とかく「理想」「自己犠牲」「善意」「親子愛」「友情」といったきれいごとに始終しがちなこの手のドラマに比べて、面白かった。でも、もちろん、そういうの好きじゃないって人も多いでしょうけど。

ちなみに、「人間関係のドロドロばかり描いていて、この時代の歴史的背景がしっかり描かれていない!」という批判もあったようですが、ドラマだからいいんじゃないでしょうか? って、もともこもないですけど。だって、歴史的背景を正確に知りたいっていうなら、専門書を読むのが一番に決まってるし、歴史ドキュメンタリー番組でも見ればいい。基本的に、小説やドラマは「人間を描く」のが目的なので、私は充分堪能いたしました。



というわけで、次回に続きます〜。




今更ですが、大河ドラマ『平清盛』を見ましたの記。その2
   〜王家=天皇家の人々の「闇」っぷりが凄い!


今更ですが、大河ドラマ『平清盛』を見ましたの記。その3
   〜今度こそよーーくわかる保元の乱!





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