井嶋ナギの日本文化ノート

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踊りを「体感する」ということ。 〜『京鹿子娘五人道成寺』『二人椀久』in 歌舞伎座

歌舞伎 日本舞踊 江戸


今月12月の歌舞伎座初日に行ってきました! で…これは…ちょっと…素晴らしすぎて…興奮のあまり、久しぶりにブログを書きます。


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『娘道成寺』と『二人椀久』を、
人間国宝・玉三郎丈が踊る!


今月12月の歌舞伎座は、「第一部」「第二部」「第三部」の3部制。そのなかの「第三部」初日を見てきたのですが、演目がとにかく好みど真ん中すぎて…! 第三部の演目は、以下。

■ 長唄舞踊『二人椀久』
  出演:玉三郎、勘九郎
■ 長唄舞踊『京鹿子娘五人道成寺』
  出演:玉三郎、勘九郎、七之助、梅枝、児太郎


両演目とも、お芝居ではなく、踊りです。踊り好きなら「キャー!」と言わずにおれない、そんな凄いラインナップなんですよ。このラインナップがどう凄いのか、カンタンに列挙しますと。(以下、長いので『娘道成寺』と省略して書きます)

・『二人椀久』も『娘道成寺』も、日本舞踊の超代表作!
・『二人椀久』も『娘道成寺』も、楽曲(長唄)が素晴らしい!
・『二人椀久』も『娘道成寺』も、人間国宝・坂東玉三郎丈が踊る!
・『娘道成寺』は、通常は1人で踊るが、今回は総勢5人で踊る!

これがどんな感じなのかと言うと、えーと、少女漫画と大映映画でたとえれば、『ベルサイユのばら』と『日出処の天子』の2演目を、若尾文子と岸田今日子と田宮二郎で上演! みたいな感じ(笑)。



歌舞伎になじみのない方にこそ、
「踊り」をオススメしたい理由


特に、この『二人椀久』と『娘道成寺』は、「歌舞伎を初めて見る人」や「踊り(日本舞踊)になじみのない人」にこそ、オススメしたい! と、強く主張したいです。

というのも、世間では、「歌舞伎」というと、『忠臣蔵』のような勧善懲悪なお芝居のイメージや、『暫(しばらく)』のような隈取した荒事のイメージが、あるようなのですが。……いやいや、歌舞伎って、夢のように華やかで美しいレヴューのような演目もあるし、肉体を鍛え上げたダンサーによるスリリングなダンスが見られる演目もあるんですよ!

実は、歌舞伎において、「踊り(日本舞踊)」は、「お芝居」と並んで、重要不可欠なものなんです。あまり言われていないような気がするのですが、実は、

 歌舞伎 = お芝居 + 踊り



「踊り」は、決して「お芝居」の添えものではなく、どちらが欠けてもダメなのです。

お芝居が(ある程度は)頭で理解するものだとしたら、踊りは五感を駆使して体感するもの。見る、というより、体感する、なんです。だって、踊りの演目を構成する要素は、つまり、MUSIC & DANCE ですから。とにかく、「キャ〜ウットリ〜」「うわ〜気持ちいい〜」「何だか、この音に乗って踊りたくなる〜」みたいな感じで、ただただトランス状態に浸ればいい。

そう考えると、踊りこそ、歌舞伎初心者にうってつけなのではないでしょうか? よく、「歌舞伎って難しいんでしょ?」「前もって勉強しなきゃわからないんでしょ?」と聞かれるのですが、確かに、そういう演目もありますよね。お芝居などでは、ある程度の知識(歴史的背景など)があったほうが、より理解しやすいものもある。でも、踊りに関しては、理屈じゃない。ただ音楽とダンスを体感すればいいのですから、難しいことなんてない、と思うのです。



250年以上かけて
練り上げられてきた踊りの舞台


『二人椀久』も『娘道成寺』も、非常にポピュラーな演目なので何度も見ていますが、今回しみじみと感じたことがありました。それは、目の前で繰り広げられている舞台が、何百年もかけて受け継がれ、何百人という(過去の)人間の手によって練り上げられてきた、その「長い歴史の積み重ねの結果」だということ。

たとえば、これらの演目の初演はというと、

1753年(宝暦03)『京鹿子娘道成寺』
1774年(安永03)『二人椀久』
 
つまり、『娘道成寺』は263年前、『二人椀久』は242年前! もちろん、曲も振り付けも演出も、初演当時100%そのままというわけではありません。特に、振り付けや演出は、役者や時代によっても変化します。だけど、曲に関しては、初演時につくられた曲が改訂改良されながらも、現在まで受け継がれている。つまり、250年前の江戸の人々が熱狂した音楽を、今も体感できるわけです。純粋に、ワクワクしますよね!

1750年〜1775年あたりと言えば、江戸時代中期。ザックリですが、田沼意次が活躍した、10代将軍徳川家治の時代。文化人で言えば、1750〜60年あたりに平賀源内鈴木春信が活躍し、1774年には杉田玄白・前野良沢らの医学書『ターヘル・アナトミア』出版、というあたり。(ちなみに、早稲田の講座に来てくださった方は、キモノ・髪型の形で時代をなんとなくイメージできるかと思います♪)

ちなみに、同時代の西洋の状況はと言うと、1750年にJ・S・バッハが65歳で死去、1755年にマリー・アントワネットが誕生、1756年にモーツァルトが誕生、1775年にアメリカ独立戦争。…うんうん、まさに、ロココ時代ど真ん中ですね!

たとえば、『京鹿子娘道成寺』だったら、山台にズラリと並んだ長唄連中・囃子連中の生演奏、何度聴いても聞き飽きることのない名曲、さまざまな踊りの技巧を織り込んだ振り付け。華やかでゴージャスなキモノにダラリの島田髷、何度も「引き抜き」で衣装が変わり、小道具も、中啓手ぬぐい鞨鼓鈴太鼓と変わってゆく…。

そうした光景すべてが、ここ最近のアイディアで生まれたというようなものではなく、約250年もかけて、数え切れないほどの人たちによって、磨き上げられ、練り上げられ、ブラッシュアップされてきた結果。それが、目の前の舞台で繰り広げられているということ、それを、自分が目の当たりにできているということが、奇跡のような、有り難いことに思えてなりませんでした。

舞台って、「その場」「その時」でないと体感することができない、はかない藝術だなと思います。もちろん、今は、映像という手段があります。ありますけど、でも、実際にその空間にいるのと、映像を見るのとでは、全く違う。好きなミュージシャンのライヴ映像を見るのと、実際にライヴに行くのとでは、1000万倍くらい違いますよね? それと同じなんですよね。



『京鹿子娘五人道成寺』は、
華麗な和製レヴュー!


特に、今回の『京鹿子娘五人道成寺』は、必見!

通常の『京鹿子娘道成寺』は、1人で踊るのが標準。最近では、玉三郎丈と菊之助丈による2人で踊る『京鹿子娘二人道成寺』がありますが、5人で踊る『京鹿子娘五人道成寺』なんて、今度いつ上演されるかわかりません! 5人で踊る『娘道成寺』は、旧・歌舞伎座の閉会式で1度だけ上演されましたが(私は未見ですが)、それ以外では、今回が初めてのはず。これを見逃すのは、あまりに惜しい! 

当代きっての役者たちが、入れ替わり立ち替わり現われて、踊ってくれる、この趣向、最高に楽しかったです! ただひたすら、華麗で、贅沢で、ゴージャスで、ドラマティックで、楽しい。そんな華麗な和製レヴューを体感しないのは、本当にもったいないと思うのです。


以降、ちょっと細かい話になりますが、今回の『娘道成寺』で、5人の役者たちがどのパートを担当していたのか? についてもメモしておきますね。

道行:七之助、勘九郎
問答:七之助
乱拍子・中啓の舞:玉三郎
手踊り(言わず語らぬ〜):玉三郎
毬唄(恋の分里〜):玉三郎、七之助、勘九郎、梅枝、児太郎
花笠踊り:児太郎
クドキ(恋の手習い〜):玉三郎
鞨鼓の踊り:七之助、勘九郎
手踊り(ただ頼め〜):梅枝
鈴太鼓の踊り:玉三郎、七之助、勘九郎、梅枝、児太郎
鐘入り:玉三郎、七之助、勘九郎、梅枝、児太郎


(もし間違えがありましたらすみません。今月は3回は見に行く予定なので(張り切りすぎ笑)、随時確認しておきます。)

特に、中村屋兄弟(勘九郎・七之助)がどちらも女形として2人で踊る、というのは、かなり貴重なのでは? 上記にも書きましたが、「道行」と「鞨鼓の踊り」は、中村屋2人だけで踊り、拍手喝采でした。

「道行」では、(長唄ではなく)義太夫の、「恋をする身は浜辺の千鳥〜」という歌詞のところで、お化粧をする振りがあるのですが。衿もとから懐紙を出して、口に当て、紅のついたその懐紙をクシャッと丸めて、ポイッと観客席に投げるんですよ〜! おお〜〜っとどよめき発生(花道の西側のほうに飛ばしてました。いいなぁ〜)。玉様と菊之助の『娘二人道成寺』では、それはやっていなかったと思いますが、江戸時代にはそうした観客サービスをしていたそうなので、復活させたのかもしれません。

「鞨鼓(かっこ)の踊り」では、勘九郎と七之助の踊りのクセの違いがわかるのも、すごく面白かったです。勘九郎は普段は立役だから、女形の踊りでも、腕の動かし方とかすごく動きが大きいなぁとか。七之助は何から何まで可憐で可愛くて、「ふつうに町娘」みたいだなぁ、とか。

それから、『娘道成寺』で一番の見せどころなのが、「クドキ」の部分。甕のぞき色の絹の手ぬぐいを手に、玉様が、しっとりと踊ります。いや…、踊るというか、もう、「存在している」という感じ。場内、水を張ったようにシーーーンとして。皆が息をとめたように、静かに、玉様の動きを見つめる、そんな「玉様劇場」。そんななか流れる長唄の歌詞は、「悋気(りんき=嫉妬)」だとか、「殿御(とのご)」が「悪性(あくしょう)」だとか、「恨み〜〜恨〜みて〜〜」だとか、かなりドロドロ(笑)。でも、玉様が踊ると、なにか「神聖・玉様劇場」に見えてくる不思議。



kabukiza2016



というわけで長々と書きましたが、「でも、もうチケットとれないんでしょ?」と、思った方もいらっしゃるかもしれません。さっき確認してみたら、普通のチケットは(第三部に関しては)、二等席(11000円)より上の席しか残っていませんでした。

でも、当日ふらっと行って格安で見ることもできるんですよ!(立ち見の可能性もあり) それが、「一幕見席」。今月の一幕見席についての案内は、コチラ。歌舞伎座のサイトに「一幕見席について」という説明もあります。これについて解説するとさらに長くなってしまうので、改めて書きたいと思います〜! 

追記。一幕見席について書きました!
→「歌舞伎座「一幕見席」のススメ。もしくは、4階当日券の購入方法について。






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■ 日本舞踊や能狂言における「足踏み」「リズム」の気持ちよさについて書いた記事
【日本を知るための100冊】003:折口信夫『日本藝能史六講』 ~鎮魂と快楽の足拍子について。

■ 2006年 玉三郎×菊之助『二人椀久』を見たときの記事
【歌舞伎・日舞】 『二人椀久』@歌舞伎座

■ 2014年 玉三郎×七之助『村松風二人汐汲』『二人藤娘』を見たときの記事
玉様&七之助の『二人汐汲』 〜もしくは、あまちゃんと汐汲み女の謎について。




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