前回の記事「早稲田大学オープンカレッジ講座「名作映画に描かれた日本の美と享楽の世界」レポートです。 〜任侠映画講座、開催しました!」に引き続き、東映任侠映画について、です。
緋牡丹お竜・藤純子の、華麗なる「手本引き」シーン!
前回、博奕の華と言われている「手本引き」について言及しましたが、講座では、具体的な映画(『緋牡丹博徒』そのほか任侠映画)の賭場シーンをお見せしつつ、「手本引き」のルールについて解説しました。
とにかく、「手本引き」のほんの基本だけでもルールを知ってると、映画に出てくる博奕シーンの緊迫感が伝わってきて、より深く作品を楽しめるようになるんですよ! 何をやってるのか全くわからないと、「博奕シーン早く終わらないかな〜(早回ししちゃおうかな)」と思いかねません(昔の私がそうでした笑)。しかし、東映任侠映画は、こうした細部のリアリティにものすご〜くこだわって作っているので、それを堪能しないのはちょっともったいないなと思うのです。
特に、藤純子さんの『緋牡丹博徒』シリーズなんて、実は、藤純子演じる緋牡丹のお竜が、「手本引き」の「胴」をつとめるシーンにこそ、見どころがあるのですから!
「丁半」の壺振りならともかく、「手本引き」の胴を女性がつとめるということは、通常はありえないそうで。前回の記事にも書きましたが、「手本引き」は複雑かつ奥深い神経勝負ゆえ、体力的にも神経的にも消耗が激しい。ゆえに、実際は、女性が「手本引き」の胴をつとめるのは無理、とのこと。というか、任侠界は歌舞伎界と同じく、「男の世界」ですから。
だけど、『緋牡丹博徒』では、美しい女博徒が、華麗に「手本引き」の胴をつとめる…! あまり言われていませんが、これこそが、『緋牡丹博徒』シリーズの斬新かつ画期的な点であり、見どころのひとつなのです。
講座では時間が足りず、いろいろな映像をお見せできなかったので、ここで、藤純子(現・富司純子)さんが「手本引き」の胴をつとめるシーンを、いくつかご紹介! ついでに、お竜さんのジミ粋なキモノ姿もチェックしてみてください。(以下、手持ちのDVDを撮影した画像です)
『緋牡丹博徒』(1968年 山下耕作監督)
記念すべきシリーズ第一作。オープニングは賭場シーンから始まります。
『緋牡丹博徒 一宿一飯』(1968年 鈴木則文監督)
賭場を荒らしているカップル(西村晃&白木マリ)をギャフンと言わせるシーン。この作品では、菅原文太が、なんと敵の一人として登場ですよ(お竜さんの味方ではなく)。1968年当時、文太はまだ主役級ではなかったのです…。
『緋牡丹博徒 鉄火場列伝』(1969年 山下耕作監督)
緋牡丹のお竜、敵方の組の賭場に参上。敵に囲まれたまま胴をつとめ、最後に敵のイカサマを見破る!という、スカッとするシーン。
『緋牡丹博徒 お竜参上』(1970年 加藤泰監督)
シリーズ中最高傑作とも言われる、シリーズ第6作。上画像は、羽織の下で「繰り札」を繰っているところ(→繰り札については前回の記事を参照)。
★ 本作での、お竜さんと文太による名シーン「雪の今戸橋」の場について書いた記事はコチラ→「美女とキモノ 映画におけるキモノ美女の研究」。 コダカナナホさんのお竜さんイラストが素敵なので、ぜひ御覧ください♪
『緋牡丹博徒 お命戴きます』(1971年 加藤泰監督)
小さなカワイイ男の子が登場し、お竜さんのあたたかな母性愛が溢れまくる、大傑作。井桁絣の越後上布のような単衣に、黒の半襟、黒の博多帯、と男装のようなキモノ姿!
さらに、『緋牡丹博徒』シリーズ以外での、藤純子×「手本引き」シーンをご紹介。
『女渡世人』(1971年 小沢茂弘監督)
母を探しつつ、修行渡世の旅をつづける妻恋いお駒シリーズ。白地の染めのキモノに、帯は半幅帯を割りばさみにしているのは、「とうに女は捨てております」という意思表示かと。
『日本侠客伝 昇り龍』(1970年 山下耕作監督)
一体何回映画化されてるんだ…と言いたくなるほど映画化されている、火野葦平原作の『花と竜』の、何回目かの映画化。しかも『日本侠客伝』シリーズでは、第9作「花と龍」(マキノ雅弘監督)と第10作「昇り龍」(山下耕作監督)が、両方とも同じ『花と竜』が原作で、両方とも主演がほぼ同じ、というややこしさ(笑)。なぜ…。
それはいいとして、上記画像は、『日本侠客伝 昇り龍』です。女刺青師・お京(藤純子)は、賭場の胴もつとめており、その賭場で運命の男(高倉健)と出会うシーン。大正時代の設定もあってか、紫色の刺繍半襟とか、大きなべっ甲の簪とか、大正ロマンふうのキモノ姿。
というわけですが、藤純子さん、美しくて、カッコよくて、色っぽいですよね〜。しかもふっくらした温かみ、情け深さ、優しさ、があってですね…(って、映画の中のキャラクターと完全にごっちゃになっちゃってますが)。
東映任侠映画の、ややこしいタイトルを整理する方法
それと、おまけですが。
以前、「ナギさんが東映任侠映画が面白いっていうから、DVD借りようかと思ったんだけど、同じようなタイトルがいっぱいあり過ぎて、どれを借りていいかわかんなかった」と言われたことがあります。
そうなんです! まず、任侠映画の何か難しいか? っていうと、タイトルなんですよ(笑)! とにかく、タイトルがややこし過ぎる。日本女侠伝、日本侠客伝、昭和残侠伝、明治侠客伝、…といった似たようなタイトルが続くうえに、さらに、それぞれがシリーズ化されていて何本もある。『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』『昭和残侠伝 人斬り唐獅子』『昭和残侠伝 唐獅子仁義』…といった調子で、これだけで、「なんかもうタイトルが面倒くさいからいいや」と嫌厭されてしまってもしょうがない、と思うほど。
が、それにもコツがあるんですよ! 私が長年(?)かけて体得した、東映任侠映画のタイトル整理法。ポイントは、以下のとおり。
「スター役者」を覚える
↓
「スター役者のシリーズもの」を覚える
↓
「シリーズもの」と「それ以外」で分類する
以上です。これだけで、かなり脳内が整理されるかと! 当時の東映では、スター俳優を中心にプログラムを組んでおり、スターは(ひどい時は)毎月のように出演作が撮影され、ある意味で「月刊 鶴田浩二」みたいな感じだったため、実は、分類しやすいとも言えるのです。
脳内整理のために、以下に、東映任侠映画における「スター役者」と「スター役者のシリーズもの」を掲げておきます。これがすべてではないですが、でも以下の作品だけも既に膨大な作品数になるので、DVDなどを選ぶ際にはかなりヒントになるかと…。
■ 鶴田浩二:『博徒』シリーズ、『博奕(ばくち)打ち』シリーズ、『関東』シリーズ
■ 高倉健:『網走番外地』シリーズ、『日本侠客伝』シリーズ、『昭和残侠伝』シリーズ
■ 藤純子:『緋牡丹博徒』シリーズ、『日本女侠伝』シリーズ、『女渡世人』シリーズ
■ 若山富三郎:『極道』シリーズ、『シルクハットの大親分』シリーズ
■ 菅原文太:『関東テキヤ』シリーズ、『現代やくざ』シリーズ、『まむしの兄弟』シリーズ、『仁義なき戦い』シリーズ、『トラック野郎』シリーズ
というわけで、初めて任侠映画のDVDを借りてみようと思った方、もしくは、以前タイトルを見てウンザリしたことのある方、ぜひ上記を参考にしていただけたら嬉しいです♪
ちなみにですが、私の最近のお気に入りは、コミカルな文太が最高に素敵な、『関東テキヤ』シリーズと『まむしの兄弟』シリーズ。年齢とともに、コメディ俳優としての菅原文太の奥深い味わいがわかるようになり、ニヤニヤしながらその味を噛みしめてます(笑)。オススメです!
私の藤純子本・任侠本コレクションの一部。インターネットのなかった学生時代、キネ旬が任侠映画解読の唯一の「参考書」であり、藤純子写真集が粋系キモノコーディネートの唯一の「スタイルブック」でしたよ…(遠い目)。
またもや全部書ききれなかったので、次回に続きます〜〜。
—— 関連記事 ——
■「美女とキモノ 映画におけるキモノ美女の研究」
『緋牡丹博徒 お竜参上』について書きました。 イラストレーターコダカナナホさんとのコラボ企画です! コダカナナホさんのイラストが素敵なので、ぜひ御覧くださいませ♪
以下、早稲田大学エクステンションセンターの講座に関する記事
■「人物像で読みとく着物ファッション
〜花魁、芸者から町娘、モダンガールまで」
■「人物像で読みとく着物ファッション」についてのレポートです
■「着物で読み解く名作日本文学
〜夏目漱石から、泉鏡花に永井荷風、有吉佐和子まで」
■「歌舞伎で読み解く着物ファッション
〜花魁、芸者から御殿女中、町娘に悪婆まで」
■「歌舞伎で読み解く着物ファッション」についてのレポートです
■「江戸のラブストーリー『人情本』に見る、江戸娘の着物ファッション」 〜『春色梅児誉美』を読んでみませんか?
■「江戸のラブストーリー『人情本』に見る、江戸娘の着物ファッション」レポートです 〜『春色辰巳園』を読んでみましょう!
■「名作映画に描かれた日本の美と享楽の世界
〜歌舞伎、浮世絵から、任俠、花柳界、戦前モダン文化まで」
■「名作映画に描かれた日本の美と享楽の世界」レポートです。
〜任侠映画講座、開催しました!
■「仁侠映画について、その2。
『緋牡丹博徒』での華麗なる手本引き、もしくは、ややこしい任侠映画タイトルを整理する。」
■「仁侠映画について、その3。
博奕と893の歴史について、もしくは修行を愛する日本人論。」