井嶋ナギの日本文化ノート

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キネマ旬報社刊『女優 夏目雅子』に寄稿しております。 もしくは、『鬼龍院花子の生涯』を見よ!!!!


お知らせです!

没後30年に合わせて発売された『女優 夏目雅子』(キネマ旬報社)に、エッセイ「いかにして彼女は、自らを転生させたか? 清楚と色気のキモノ女優考」を寄稿しております。

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「清楚と色気のキモノ女優考」…というタイトルで、夏目雅子とキモノについて書きました。とりあげた作品は、映画『鬼龍院花子の生涯』(五社英雄監督)と、TVドラマ『虹子の冒険』(久世光彦演出)と、TVドラマ『妻は告白する』(瀬川昌治監督)、の3作品です。

特に、映画『鬼龍院花子の生涯』は、拙著『色っぽいキモノ』でも書きましたが、高校生時代に、粋で色っぽいキモノというジャンルに覚醒するきっかけとなった作品であり、我が心のNo1ベストムーヴィであり、仲代達矢の大大大ファンになった作品でもあり……ちなみに、久しぶりにDVDを見返して、またもや号泣。泣きながら原稿書きました。


で、今回、夏目雅子作品(TVドラマも含む)の映像を、できうる限り見たのですが、夏目雅子って、現代の女優さんにしては、かなりキモノを着る割合が高いんですね〜。面白いなぁ、と思いました。そこで、きっと、作り手側(たいてい男性)は、夏目雅子にキモノを着せることで、夏目雅子に何らかのイメージを付与しようとしたに違いない…という仮説のもと、上記の「清楚と色気のキモノ女優考」を書いてみました。

意識するにせよ、無意識にせよ、やはり、現代においてキモノを着るということは、決して「自然なこと」ではないと、私は思っています(良い悪いではありません、念のため)。キモノが日常着ではない現代において、あえてキモノを着るという行動には、何らかの「意図」や「目的」があり、そしてそこには、何らかの「意味」や「イメージ」が否応なく発生してしまう。それをあえて無いこととしてふるまうのもひとつの選択ですが、私は、そうしたことをきちんと自覚したい、と思うのです。そういう意味で、「現代において、キモノという衣裳が(否応なしに)担ってしまう意味」についても、考察してみました。ぜひぜひ、読んでいただけたら嬉しいです!


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…という私のことはともかくとして。この本、とにかく、とっても素敵な本です!! 装丁やデザインも、スタイリッシュ!(←大事ですよね。マニアックな本ほど、スタイリッシュな装丁、大事ですよね!!) 内容も、夏目雅子の貴重な写真や、夏目雅子の昔のインタビュー記事再録など、盛りだくさん。

特に、映画業界の方々へのインタビューは、映画ファン必読! 『鬼龍院〜』で夏目雅子と共演した岩下志麻姐さんや、篠田正浩監督(岩下志麻の旦那様ですね)、『鬼龍院〜』の脚本家の高田宏治氏、津川雅彦佐藤浩市などのインタビューが、かなり貴重。特に、津川雅彦氏のインタビューが、ものすごく面白い!! 夏目雅子のイメージ、変わります。ひとつだけ書いちゃうと、夏目雅子が、鬼のシゴキで有名な相米慎二監督をdisってた話とか(笑)。ちなみに、佐藤浩市も、夏目雅子が相米監督を「ハゲ」とdisってたとバラしてました…(続きは本書をどうぞ!)。

そのほか、笠原和夫氏(任侠映画で有名な脚本家)が、夏目雅子で『緋牡丹博徒』みたいなものを撮りたがってたとか、高田宏治氏(任侠映画で有名な脚本家)と蔵原惟繕監督が、夏目雅子と仲代達矢で明治時代版『風と共に去りぬ』をやろうとしてた(脚本までできてた!)とか、篠田正浩監督は、夏目雅子で谷崎潤一郎の『武州公秘話』をやろうと思ってたとか、「うわーーーー見たかったーー」と思うような話もポロポロ。


にしても、夏目雅子は、ずいぶん、第一級の映画人たちに愛されていたのだなぁ、と改めて驚きました。当時、単なる美女なら他にもたくさんいたはずで…、夏目雅子には、美貌のほかに、そうしたクリエーターたちの心をグッと惹きつけるものがあった、としか思えません。

でも、それって、何だろう?


そういえば。本書での篠田正浩監督へのインタビューで、篠田監督が以下のようなことを仰っていたのが、非常に印象的でした。


「彼ら(『瀬戸内少年野球団』に出演していた、夏目雅子、渡辺謙、郷ひろみ)はみんなすごく礼儀正しく真面目でしたが、一番不良性を秘めていたのは夏目君でした。根本的に言うと、不良性のない、つまり本人の中に危険なものを秘めていない女優さんは、何を演っても同じになってしまうんです。夏目君にはいつ壊れるかもしれないという、内面のマグマを秘めていたんじゃないか。」



これ、演技だけではない、なにか、人間の魅力や芸術の引力といったことに関する「本質」をついているような気がしてなりません。特に、芸術ジャンルにおいて、このことはすべてに言えることなのではないでしょうか?


あ、ちなみに、この篠田監督の言う「不良性」とは、表面的な浅いカテゴリーでの「不良」(暴れたり、遊びまわったり、ハデだったり、チャラかったり、酒・性・賭事・薬物・軽犯罪…といった表面的な言動スタイルによりカテゴライズされるところの「いわゆる不良」)という意味ではないでしょう。えーと、ちなみに、こういう表層的な言動パターンにより帰結する不良さんって、内面はわりと常識的でごく普通だったりします(良い悪いではなく、客観的に)。

じゃあ、篠田監督が言ってる「不良」って何だ? っていうと、外見や普段の言動からは全く分からないが、当人にもどうにもしようがない「熱さの塊」「過激な魂」を内面に抱えている人、のことではないか、と。これを、「業」とも言いますが。

それでも、「えー。それって何のこと? それってどういう人のことよ?!」と、もしも、さらに聞かれたならば。

とにもかくにも、

五社英雄監督と高田宏治と仲代達矢と夏目雅子と岩下志麻と夏木マリがおのおののアツい「業」をぶつけ合い燃え上がり灰となって散る『鬼龍院花子の生涯』を見よ!!!!

 …ということで、ひとまずは答えとしたいと思います。




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