井嶋ナギの日本文化ノート

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岡本太郎『明日の神話』原発描き足し事件について。

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昨日、渋谷駅(JR渋谷駅&井の頭線渋谷駅をむすぶマークシティ内通路)にある岡本太郎の作品『明日の神話』に、福島原発が描き足される、という出来事がありました。朝からtwitterでちらほら情報がまわっていて、画像コラージュかな?と思ってたら、@monomiyusanさんが撮影した写真を拝見、実際に福島原発を描き足してあることを知り、「お?!」と。

(左画像が、物見遊山さんが撮影した写真。許可を得て貼らせていただきました。ありがとうございます!もと画像はこちら。)

しかも「『明日の神話』再生プロジェクト オフィシャルページ」を見てみると、この岡本太郎の『明日の神話』、1954年に米国の水爆実験による放射性物質の降下でマグロ漁船・第五福竜丸の乗組員が大量被爆した「第五福竜丸事件」を題材に、禍々しく残酷な力と、それにも負けずに生きていく人間の強い生命力をえがいた作品。

先日のエントリー「「世界の不思議ちゃん」としての日本。もしくは、そこでより良く生きるための新たな視点について。」でも書きましたが、映像ディレクター・アーティストの市村幸卯子さんが、「欧米人のようなあそこまで徹底した合理的な思考方法や言動は、日本人にはなかなか根付かない。たとえばデモひとつにしても、やり方がイマイチ上手くなかったりする。“世界の不思議ちゃん”である日本人として、日本人は日本人なりのやり方を模索できないものだろうか?」と言っていて、なるほどなぁと思ったのですが、今回のこれ、このやり方はなかなか日本人らしく静かに効果的でいいかも。海外ならバンクシー(banksy)とかいるけど、少なくとも今の日本においてはデモンストレーションの新しい形だよね、と、久しぶりに面白く思ったのです。

しかも、作品がほかの作家ならともかく、岡本太郎ですからね~。太郎(もしくは敏子さん)が生きていたら、面白がって大笑いするか、もしくは「ぬるい!なぜもっとやらない!怒りを爆発させろ!」と言うんじゃないかな~と、ニヤニヤしておりました。


ところが。今日のTBSのニュースで、「岡本太郎さんの壁画に悪質ないたずら」というタイトルで、以下のような文が。

東京の渋谷駅構内に飾られている画家、岡本太郎さんの壁画の一部に、福島第一原発の事故をイメージした絵が張りつけられていたことが分かりました。警視庁は悪質ないたずらとみています。

崩壊した建物からドクロのような黒煙が上がっている絵。福島第一原発事故をイメージしたように見えます。これは東京の渋谷駅構内に展示されている故・岡本太郎さんの壁画で、アメリカの水爆実験などを描いた「明日の神話」の一部に張りつけられていたものです。

絵は横幅、およそ2メートルのベニヤ板に描かれていて、通報を受けた警視庁が、壁画を保全するNPO団体の立ち会いのもと、1日夜、撤去したということです。

「時期が時期でしょう。福島の原発をイメージした絵のようだったから、何か逆なでするようなね」(NPO「明日の神話 保全継承機構」 小林幹育 理事長)

警視庁は、悪質ないたずらとみて調べています。(02日11:31)<

頭から「悪質」と決め込んでますけど、、こういうことがなされた意味を少しでも考えれば、「何が、本当に、悪質なのか」は自ずとわかると思うんですけど・・・。あ、わかっててもわからないフリしてるのかな(笑)。


ちなみに、東京新聞のサイトにも、「「明日の神話」にいたずら 故岡本太郎氏の壁画」というタイトルで記事がありましたが、こちらは中立の立場で「悪質」と決め込むようなことはありませんでしたが、以下のようなNPO「明日の神話 保全継承機構」の担当者の言葉が。

壁画の展示と維持管理のため活動する「明日の神話 保全継承機構」の担当者は、「とんでもないいたずらで迷惑している。多くの方が苦しんでいる中で(原発問題と)結びつけられるのは困る」と話している。

「多くの方が苦しんでいる中で(原発問題と)結びつけられるのは困る」って、こういうことがなされた意味をちょっとでも考えれば、「何が、多くの人を、苦しめているのか」は自ずとわかると思うんですけど・・・。あ、わかっててもわからないフリしてるのかな(笑)。わかります、処世術というやつですね。


さらにtwitterでこのことを書いたら、「マズイだろ!」「芸術作品への冒涜!」「犯罪じゃね?」「これは駄目でしょ!」という否定的意見が私にもダイレクトに送られてきて、ビックリ。もちろん私と同じように感じている人々が大半ではあるものの、、コレに対して否定的な意見(というか感情)を持つ方もたくさんいらっしゃるのですね。驚きました。


そんな否定的意見が出る理由としては、こういう「自分ができないことを周囲に先駆けてやってくれちゃった人間」に対する嫉妬や反感というのがもっとも大きいような気がするのですが(笑)、、まぁ百歩譲って、それ以外の理由を考えるとしたら、以下の3つの「無知」が考えられるのではないでしょうか。

■1 「岡本太郎の『明日の神話』の左右下は、最初から空白である」ということを、単に知らないという無知。
 岡本太郎の芸術作品に傷つけるなんてありえない!というなら、もちろん私も同感。でも今回のコレは、もともと空白で何もなかった部分に、ベニヤ板をテープで張り付けただけなので、作品を直接傷つけてはいない。

■2 「岡本太郎の『明日の神話』が、水爆→放射性物質→第五福竜丸の被爆、を題材にした作品だ」ということを、単に知らないという無知。
 原発の絵を何の関係もない絵に描き加えた、というならあまり意味はない。だけど、水爆と原発は違うとはいえ、核(放射能物質)の恐怖と人間の生命力をテーマにしている絵という意味では、今ほどこの作品の意味が問われる時はない。

■3 「岡本太郎がどんな人で、どんなことを考え、どんなことを言っていたか」ということを、単に知らないという無知。
 岡本太郎の本を一冊でも読んだことがあれば、わかると思うのですけどね。岡本太郎が、自分の作品の空白部分に何か付け加えられただけで、「芸術への冒涜!」「犯罪!」なんてチンプな発想をするようなちっちゃい人間ではなかった、ってことくらい。

wikipedia を読んだだけでも、岡本太郎のひととなりがわかるはず。以下。

太陽の塔の目の部分をヘルメット姿の男が占拠し、万博中止を訴えたアイジャック事件の際には狂喜して、居合わせたマスコミに対し「イカスねぇ。ダンスでも踊ったらよかろうに。自分の作品がこういう形で汚されてもかまわない。聖なるものは、常に汚されるという前提をもっているからね」と言った。(井嶋注:さらに、太郎自ら自分のカメラでそのアイジャックの様子を撮影し、かなり楽しんでたとのこと笑)
自らの作品をガラス越しで展示されるのを非常に嫌い、そのままの状態で鑑賞してもらうことを善しとする考えであった。それを表す逸話として、国立近代美術館で展示中だった「コントルポアン」を傷つけられたことがあり、それ以降関係者がガラス越しでの展示を提案すると太郎は激怒し、「傷がつけば、俺が自ら直してやる」とまで言ってのけたという。
渋谷駅の駅ビルのような位置づけである渋谷マークシティという、渋谷駅からの電車の微振動や乗降者数の多さ、そして気温・湿度の激しい変化に晒されるなどとても設置場所としては不向きなところに展示される「明日の神話」も、以上の理由で何の防護措置も施されずに展示されることになった

 

というわけですから、岡本太郎からしてみたら、自分の作品の空白部分にベニヤ板を張り付けられるなんて、そんなの「朝飯前」っていうか、当に「織り込み済み」っていうか、むしろ「待ってました!!!」「もっとやれ!!!」に決まってんじゃん。・・・って思う私がおかしいのでしょうか(笑)。

 

むしろ私は、今回のこの出来事により、『明日の神話』という絵がもつ現代性と強烈なパワーに改めて気づかされたと同時に、この絵が今も生きているということ、そしてこの絵を通して、岡本太郎自身も今も生きているということに、改めて気づかされました。

 

そして、かつて岡本太郎という類を見ないほどパワフルで器の大きい人間がいて、その作品が渋谷駅の壁にガラスカバーもせず堂々と飾ってあって、さらに、その作品を「今」に更新させて静かにデモンストレーションをする人がいる、そのことに、心強ささえ感じたのです。

 

あの絵に福島原発を描いたパネルを張り付けた方、誰だかわからないけれど、私は励まされましたよー。感謝!

 

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(すでに書き足し部分がはずされた昨晩の現場)

 

 

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■「岡本太郎100年祭

■「放蕩娘の縞々ストッキングβ」-「【お洒落】毛皮賛歌
5年前に書いたブログ記事。
岡本太郎の面白インタビューについてちょっと触れてます。

■「物見遊山
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