井嶋ナギの日本文化ノート

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映画『小さいおうち』のパンフレットに寄稿しました。 〜もしくは、昭和モダンの装いについて。


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先週から全国公開されている映画『小さいおうち』のパンフレットに、寄稿させていただきました。タイトルは「女性とお洒落の密やかな関係 〜『小さいおうち』の装いのこと」。昭和初期のキモノについて書いています。


小さいおうち』は、以前から中島京子さんの原作も読んでいて、とても面白いと思っていたのですが、山田洋次監督による映画も素晴らしい! 原作にかなり忠実なので、ストーリーじたい面白いのはもちろん、音楽も久石譲氏で泣かせるし、「男はつらいよ」シリーズ(←好き)の山田洋次監督なのだから、面白くないはずはないのですが。ただ、ビジュアル要素にうるさい女性として見ていて楽しかったのは、舞台となった赤い屋根のお家のインテリア(外観はデ・ラランデ邸みたいでカワイイ!)や、登場人物のキモノや洋服! そういった女子が喜ぶビジュアル要素にも手を抜いていないところ、それだけでも必見かと。

特に、「昭和モダン」時代のオシャレライフを垣間見ることができたのは、個人的にあの時代に興味津々で、いろいろ資料や本を読みまくっていた私としては、目の覚めるような思いがいたしました。図書館で読みまくってた『婦女界』や『婦人倶楽部』や『婦人画法』(←以上、昭和初期の人気女性雑誌)の白黒のくすんだページが、急にカラーになって目の前で動いている! という喜び(笑)。

江戸・明治・大正をビジュアライズした映画なら、クオリティの高いものって結構あるんです。でも、昭和初期をクオリティ高くビジュアライズした映画(しかもカラーで)って、ほとんど無いように思うのですよ…(私が知らないだけだったらごめんなさい)。昭和モダン時代を舞台にしたカラー映画っていうと、たとえば『帝都物語』をいま思い出しましたが、あの作品は、加藤とのバトルのビジュアライズにはお金をかけてますけど、庶民のモダンでお洒落な暮らしぶりのビジュアライズには、力入ってないですものね(あ、でもあの映画は好きですよ!荒俣先生も嶋田久作も好き)。


ちなみに、アンティークの古い着物の展覧会などをたくさん見てきて、私がいつも感じていたのは、キモノが最も華やかで派手でヴィヴィッドだったのは昭和初期だったのだな、ということなんです。何となく、昔の華やかなキモノ=大正ロマン、ってイメージありますけど、大正時代のキモノはまだ結構ジミだったりするんですよ。で、大正時代後期から昭和初期(戦前)にかけて、ものすごく華やかにハデになっていく。今の私たちからしたら「えー、こんなハデな色の、こんなハデな柄のキモノ、よく着てたなぁ!」と、思わず思ってしまうような。

それには理由はいろいろあって、ふと今思いつくだけでも、たとえば、外国映画の影響、西洋文化の浸透、洋装の普及、不況から来る刹那的な空気(エログロナンセンス)の蔓延、安価な染料の開発と普及、安価な織物(銘仙、錦紗、錦紗レーヨン、メリヤス)の開発と大量生産、中流階級の台頭、女性の進出、消費社会の出現、などなどが挙げられるかと思いますが。


それはともかく、この映画『小さいおうち』は、昭和10年(1935)〜終戦の昭和20年(1945)あたりの、東京の中流家庭(今で言う"中流"とは違いますよー。念のため)を舞台にしたお話。昭和モダンの華やかさを堪能できるとともに、徐々に戦争による「非常時」の空気が満ちていくあたり、かなり痛切に胸を打たれます。

ハデであろうがジミであろうが、野暮であろうが粋であろうが、誰からも強制されることなく着たいものを着ることができる。そんな時代に生きることができているだけでも、感謝しなければいけないのかもしれませんね。



そんなわけで、『小さいおうち』、パンフレットもデザインがすごくカワイイし、内容もたっぷりなので、見に行かれた時にはぜひ! 特に、昭和モダン時代についての文章がたくさん掲載されていて、とても楽しかったです。例えば、『女中がいた昭和』の小泉和子先生のコラムとか、昭和初期の年表とか、ちいさいおうちのセットの間取り図(!)などなど。ついでにですが、『ちいさいおうち』の公式サイトには、このちいさいおうちのバーチャルツアーのページがあります!→コチラ。さらには、「渡辺篤史の建もの探訪」のページまで(笑)!→コチラ。「建築好き」にはたまらないですねぇ(笑)。

ああ、こういうカワイイおうちに、いつか住みたい…。高級高層マンションとか全然どうでもいいけど(縁もないけど)、こういうカワイイ古い洋館にはいつか住みたい…。そんな思いに胸を熱くした私でした。





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