ここ数ヶ月ずっと気になっていたドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』(原題『INTO ETERNITY』/2009年/マイケル・マドセン監督)を、遅ればせながら見てきました。
フィンランド南部のオルキルオト島(Olkiluoto Island)に建設中の、世界初の高レベル放射性廃棄物処分場「オンカロ(Onkalo)」についてのドキュメンタリー。といっても、内容は「オンカロ」建設現場の(まるでSF映画のように美しい)映像と、関係者へのインタビューがメイン。フィンランドでの原子力関係業界や住民の反対運動といったことに関するドキュメンタリーではありません(念のため)。あ、あと監督のマイケル・マドセンは、『レザボア・ドッグス』のMr.ブロンドではありません(一応念のため)。
とにかく映像がとても美しく、確実に『2001: A Space Odyssey』へのオマージュだと思われるシーンも多々あり(で、流れる音楽もワルツだったりして)、淡々とした美しい映像が続きます。だけど、この淡々とした光景こそが現実なのだと考えると、かえってうすら寒いような気がするのです。この淡々とした光景は、「地下500m下まで掘り下げてつくった地下施設」に「高レベル核廃棄物」を「10万年のあいだ長期保管する」ための光景なのだ、と思うと。
10万年後とは、1021世紀のこと。この作品でも「10万年」という時間の長さを図にしていましたが、このスケール上で見るとピラミッドができた時代(5000年前)でさえ「ほんの最近だよね!」ってことになってしまうくらい、10万年とは気の遠くなる長大な時間。ちなみに、今の私たち人間「ホモ・サピエンス」が誕生したのが今から20万~15万年前らしいので、まぁザッと人類の歴史くらいの長さ=10万年、という感じでしょうか。
では、なぜ10万年なのか?というと、放射性廃棄物(使用済み核燃料)に含まれているプルトニウムは半減期が2万4000年で、実質的に生物にとって安全なレベルとなるまでには10万年という時間が必要となるから、なのだそうです。
このドキュメンタリーでは、「ここに埋められている放射性廃棄物が危険だということを、10万年後の人類に伝えることができるのか?」という問いを「オンカロ」の上層部や学者にぶつけており、この問いが作品全体のメインテーマとなっています。
彼らの回答はそれぞれで、中には「無理だと思う」と悲観的な人もいたし、「それでも努力せねばならない」と前向きな人もいましたが、みなそれぞれに困惑の表情を見せ、「確実な答えはない」という現実を隠そうとはしていないように思いました。少なくとも、「根拠のない一方的な断定」「論旨のすり替え」「非人間(ぬか・柳・のれん等)と化して応答不能を表現」「枝葉末節な事柄を大きく取り上げる」といった最近見慣れすぎてそろそろ『議論したくないことを議論せずに煙に巻く方法 ~大企業・官僚・学者・マスコミに学ぶ』みたいな「議論逃れ分析&how to 本」でも出版されるんじゃないか?出版されないなら私が企画書書こうか?とさえ(憤りのあまり)思ってしまうような態度は、見受けられなかったように私には感じられました。ま、有事の時にどうなるかはわかりませんけども。。
「オンカロ」とは、フィンランド語で「隠された場所」という意味だそう。地下深く500mを切り開く建設作業員の休憩室に貼られていたヌードグラビアの、その豊胸をも隠さないボールのようにまん丸なバストと、「オンカロ」関係者がつぶやいた「Nobody knows anything」という一言が脳内から離れない、そんな作品でした。
映画『100,000年後の安全』 ( 原題『INTO ETERNITY』)
(2009年/79分/デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア/英語)
監督・脚本:マイケル・マドセン
脚本:イェスパー・バーグマン
撮影:ヘイキ・ファーム
編集:ダニエル・デンシック
出演:T・アイカス、C・R・ブロケンハイム、M・イェンセン、B・ルンドクヴィスト、W・パイレ、E・ロウコラ、S・サヴォリンネ、T・セッパラ、P・ヴィキベリ
配給・宣伝:アップリンク
2010年パリ国際環境映画祭グランプリ
2010年アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭 最優秀グリーン・ドキュメンタリー賞受賞
2010年コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭 有望監督賞受賞
全国各地で上映中→コチラ。
都内では、アップリンクのほか、東京都写真美術館(~8/12)でも上映中。
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そんなわけで、「オンカロ」の背景や事実についてもっと知りたいと思い、ネットでいろいろ調べてみました。
フィンランドというと何となくエコなイメージがありますが、フィンランドはヨーロッパでは有数の原発推進国なんだそうです。と言っても、日本のように54基もあるわけではなく、今のところ4基。フィンランド南西部の「オルキルオト原子力発電所」(TVO社)に2基、フィンランド南東部の「ロヴィーサ原子力発電所」(FPH社)に2基。
世界唯一の放射性廃棄物処分場「オンカロ」は、上記のTVO社とFPH社の共同出資による「ポシヴァ社(Posiva Oy)」によって実施され、「オルキルオト原子力発電所」のあるオルキルオト島に建設中。立地の選定は10年以上もかけて慎重に行われており、1983年に既に調査がスタート、全国規模で候補地を検討した結果、1999年にオルキルオトに建設することを申請、2000年に閣議決定、2001年に議会承認されたそうです。そして、2004年に着工、現在で地下400mほどまで掘削進展中。(にしても、1983年に既に処理場のリアルなリサーチが始まっていることに驚きました・・)
『100,000年後の安全』の中でも一部使われていた、ポシヴァ社による「オンカロ」PR映像がとても興味深かったので探してみたら、ポシヴァ社HPにもyoutubeにも上がっていました。
↓ポシヴァ社による「オンカロ」PR映像
ダイナマイトで地下深くらせん状にトンネルを掘り、520m地下に展開される予定の処分場に、キャニスターに格納した高レベル放射性廃棄物を次々と埋めてゆき、100年後に処分場がいっぱいになったら(予定では2020年~2120年までに終了)、処分場&トンネルすべてをコンクリートで埋めて完全封鎖、という具体的なプロジェクト内容がよくわかります。
ちなみに、フィンランドでは現在、「オルキルオト原子力発電所」に新たな原発1基が建設中で、さらにもう1基も建設予定決定。また、フィンランド北部にも新たに1基が建設が予定されていて、こちらの原子炉についてはAREVAと東芝がセールス合戦をくり広げ、立地候補地については過疎地ゆえの誘致合戦がくり広げられているとか・・・。どの国も同じなのか、やっぱり。
にしても、1954年にソ連で初めて原子力発電所が建設されて以降、世界中に原子力発電所があるにもかかわらず、そのゴミ(放射性廃棄物)の行き場が世界どこを探してもどこにも無い! というトホホな状態が60年も続いているとは・・・。(ちなみに、現在のフィンランドでは核廃棄物の輸出入が禁じられているので、「オンカロ」で処分できるのはフィンランドの核廃棄物だけです)
さすがにこれじゃマズイだろということで、モンゴルのゴビ砂漠に放射性廃棄物(使用済み核燃料)の処分場をつくる計画が、日本とアメリカとモンゴルとアラブ首長国連邦のあいだでコッソリ?進んでいるらしいです(→毎日.jpの記事はコチラとコチラ)。しかも、なんでアラブ首長国連邦が?と思ったら、アラブ首長国連邦でも2017年から原発を稼動させる予定とのこと(受注したのは韓国)。石油王も石油だけじゃ不安なんですかね、やっぱり。私は経済も政治もよくわかりませんが、なんだかもうキリがない、って感じだ。いろいろと。
パワー(カネ含む)への欲望は、いずれ人類を滅ぼしかねない。それは明らかだ。しかし、それを牽制するためにも、やはりパワー(カネ含む)が必要なのだ。
・・・ってことか? 要するに。
「やれやれ」と彼女はパスタをゆでる手を妖精が魔法をかけるように回しながら言った。「そんな論理にはもう飽き飽きね」
「僕もおおむね、君の意見に賛成だ」
「今日会えてよかった」
「僕もさ」
ラジオのFM放送から音楽が流れてきた。曲はザッパの「悪徳政治経済相談会社」。彼女とふたりで食事しながら聴くのにうってつけの音楽とは言いがたい、とワタナベは思った。
(と、村上春樹ふうに終わり! 特に意味はありません)
「悪徳政治経済相談会社」(THE BELTWAY BANDITS)が収録されている『フランク・ザッパ:グレッガリー・ペッカリー』。視聴はコチラ。ついでに、BELTWAY BANDITの意味はコチラ。
------ 参考記事 ------
■ 「レアリゼ」--「フィンランドで福島原発事故はどう見られたか」
■ 「フィンランド便り」--「フィンランド、原子力発電の建設、推進中・・・」
■ 「新語時事用語辞典」--「オンカロ」
■ 「FDS」--「Onkalo」
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