井嶋ナギの日本文化ノート

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早稲田大学オープンカレッジ講座「名作映画に描かれた日本の美と享楽の世界」レポートです。 〜任侠映画講座、開催しました!

昨年は、春・夏・秋と、早稲田大学エクステンションセンターにて連続で講座をおこなった一年でした。今年も、春・秋に講座を行う予定です! …というわけで、新年早々、去年を振り返りつつ今年を見据えるという意味で、昨年の講座のレポートを書きたいと思います。

昨年行った講座は、以下の3つの企画です。

歌舞伎で読み解く着物ファッション
 〜花魁、芸者から御殿女中、町娘に悪婆まで


江戸のラブストーリー「人情本」に見る江戸娘の着物ファッション
 〜『春色梅児誉美』を読んでみませんか?


名作映画に描かれた日本の美と享楽の世界
 〜歌舞伎、浮世絵から、任俠、花柳界、戦前モダン文化まで


というわけで、今回は、昨年秋におこなった「名作映画に描かれた日本の美と享楽の世界」について、レポートします!



学校では教えてくれない日本文化を、日本映画で学ぶ!


今回の講座は、キモノの講座ではありません。ひとことで言えば、「日本映画で、日本文化を学ぼう!」という内容。しかも、「任侠」「吉原」「花柳界」など、映画や芝居や小説などでは「おなじみ」の世界なのに、学校や親には決して教えてもらえない日本文化、というのがテーマ(笑)。

この講座を企画した理由については、以前の記事で詳しく書きましたが(→コチラ)、実は、私たち現代人にとっては「なじみがない」「知識がない」にも関わらず、古い映画や芝居には、やたらとよく出てくる背景世界・背景文化がある、と思ったからです。

それが、「任侠世界」「花柳界」「吉原」「浮世絵」「歌舞伎」「モダン文化」の世界。

これらの特殊(?)な世界を取り上げて、その歴史、背景、ルール、などを細かく見ていくことで、古い日本映画やお芝居、歌舞伎、小説、をより深く楽しめるようにと思い、企画いたしました。

実は、私自身が、古い日本映画にハマり始めた高校生時代、その映画の舞台になっている世界・文化の知識がなさすぎて、もどかしい、歯がゆい、ジリジリした思いで映画を見ていたんです。当時は、調べようにも今ほどイロイロな文献も無く、もちろんネットも無く、すべてが「未知との遭遇」だったため、いつも夢に浮かされたような日々でしたね…(「情報が無い」という状態は、ハングリーな「飢え」からの情熱が生まれやすいという意味で、良いことでもあったのかもしれませんが)。

というわけで、今回の講座は、以下の5つの世界を設定して、解説しました。以下画像は、それぞれの回で使用したスライドの表紙です。(※ この記事の最後に、表紙で使用した映画作品のリストを載せておきました)


日本映画と歌舞伎01
日本映画と吉原と浮世絵01
日本映画と花柳界01
日本映画とやくざ任侠01
日本映画とモダンガール01





念願かなって、任侠映画講座、開催!


で。今回の講座で、イチバンの目玉であり(と、私が勝手に思っていただけですが笑)、かつ、受講してくださった方のアンケートでも評判がよかったのは、「任侠世界 〜侠客、博徒、そして女侠客」の回です!!!! 折しも、山口組分裂事件が起こった時期で、やくざ屋さんに一気に注目が集まった時でしたから、「何とタイムリーなんだ!」と勝手にひとりで大盛り上がり、しばらく自宅では東映チャンネル付けっぱなし「東映・やくざ映画まつり」でしたが…(笑)。

とにかく、学生時代から何故か大好きだった、東映やくざ任侠映画。今から思えば、当時の私にとって東映任侠映画は、わかりやすい歌舞伎だったのかもしれない、と思うのです。様式美、残酷美、嗜虐美義理と人情懐古趣味と江戸趣味。そんな歌舞伎的な要素が、現代人にもわかりやすい形で、ギュッと詰まっているのが、東映任侠映画。だから、「えー、やくざ映画なんて」という偏見を持っていたとしたら、本当にもったいないなーと。特に、歌舞伎好きの人なら、必ず任侠映画も面白いに違いない。そんな思いをずっと持っていたので、念願叶っての、やくざ映画講座でした。


やくざ映画講座の回では、以下の3本立でお話しいたしました。

1. 東映任侠映画の歴史(1962〜1973年)
2. やくざ者の歴史(江戸〜近代)
3. 任侠文化と博奕(バクチ)(特に、手本引きについて)



東映任侠映画の華、博奕(バクチ)シーン!


今回のこの任侠映画講座のなかでも、かなり力を入れたのは、博奕(バクチ)シーンの解説、でした(笑)。でも…バクチって…違法ですから…あまり大っぴらに「バクチのやり方を解説しまーす!」っていうようなものではないですよね…。でも、東映任侠映画を見るに際して、博奕のちょっとした基本を知っているだけでも、面白さがグンと深まるんですよ! 

というのも、実は、東映任侠映画では、金筋のやくざ屋さんを撮影所につれて来て、博徒のしきたりや博奕シーンの考証指導をキッチリやってもらったそうで、他の映画会社のなんちゃって博奕シーンとは大違いなんですよ。


実際、そのスジの方の名前もちゃんとクレジットされてます。

緋牡丹博徒花札勝負-原案石本久吉


緋牡丹博徒 花札勝負』(1969年 加藤泰監督)原案・石本久吉

彼は、当時、大坂の「小久一家」総長で、上方の任侠界の長老だった人。祖父が国定忠治の世話になっていたり、会津小鉄と親しかったりと、言わば「任侠界のエリート」といった人物です。また、手打式指導のクレジットも発見(注:手打ち式=組と組の抗争の後に、和解する儀式のこと)


緋牡丹博徒お竜参上_手打式指導石本久吉


緋牡丹博徒 お竜参上』(1970年 加藤泰監督)手打式指導・石本久吉

その他、クレジットされていなくても、ホンモノのやくざ屋さんが撮影所で指導することもしばしばで、時には、博奕シーンにエキストラとして出演していたり、刺青大会シーンではホンモノの倶利迦羅紋紋がズラリとか、いろいろ、なんていうか、見ればわかりますが、迫力が、いろいろ、スゴイです…。

そんな、本格的リアリズムに溢れた任侠映画作りを推し進めたのが、俊藤浩滋プロデューサー(ご存知、藤純子(現・富司純子)さんの実父であり、さらに言えば、映画『夜の蝶』のモデルになった有名クラブ「おそめ」マダムの愛人、のち夫)。戦前からその賭場に出入りし、そのスジの人と付き合いがあった俊藤プロデューサーの、「古き良き時代のホンモノの任侠界を描きたい」という情熱あってこそ、あの傑作映画群が生まれたと言っても過言ではない!ってくらい、スゴイ人。以下、俊藤氏の聞き書きより。

私は、脚本を書く小沢茂弘と村尾昭と一緒に、その方面の知り合いをはじめ、いろんな人のところへ取材に行った。(中略)いざ撮影となったときには、ホンモノの方に来ていただいて現場であれこれ意見を聞き、主人公が命を賭けて勝負する博奕場のシーンでは出演もしてもろうた。

    『任侠映画伝俊藤浩滋・山根貞男 講談社 より





博奕の花、「手本引き」とは?


日本の博奕にはさまざまな種類があり、時代や地域によっても相違がありますが、大きくわけると、「サイ(サイコロ)」と「フダ(札)」。江戸時代は、2個の「サイ」を使った「丁半」がほとんどでしたが(よくある、ツボにサイコロを入れて伏せて開けるアレです)、明治以降には、「フダ」を使った複雑な博奕が流行します。関東では、花札を使う「アトサキ(バッタマキ)」が主流に、関西では、花札ではなく独自のフダを使う「手本引き(てほんびき)」が主流に。


そう、この「手本引き(てほんびき)」こそが、「博奕の花」「究極のギャンブル」とも言われ、複雑かつ奥深い、究極の頭脳ゲームであり、博奕のなかで最も格が高いと言われているバクチ!(キモノと同じように、博奕にも「格」があるんですねぇ…) そして、東映任侠映画に欠かせないのが、この「手本引き」による本格的な博奕シーンなのです…! もちろん、我らが緋牡丹のお竜さんがイカサマを見破ったり、悪玉をコテンパンにやっつけたりする賭場シーンで行われているのも、実は、ほとんど「手本引き」なんですよ〜(たまに「アトサキ」もやってますが)。

実際の「手本引き」にはものすご〜く複雑なルールがあるんですが、一言で言ってしまうと、「胴(親)が選んだ数字を、客が当てる」というもの。特徴は、以下のような独自のフダを使用します(井嶋私物)。今回の講座にこのフダをお持ちしましたが、皆さんとても興味をもってくだり、写真を撮られている方もいらっしゃいました。

手本引-繰札


上記が、胴(親)が使用する、「繰り札(くりふだ)」。左から、1〜6の数字が書かれています。


手本引-張札


上記が、張り子(客)が使用する、「張り札(はりふだ)」。左から、1〜6の数字が書かれています。

なんというか、デザインが素晴らしいので、お金を賭けなくても、ちょっと遊んでみたくなりますよね〜(笑)。

ゲームの流れをカンタンに説明しますと。まず、「胴」が客に見えないように「繰り札」を1枚選び、手ぬぐい(「紙下」)に包んで、手前に置きます。客は、胴が選んだ札の数字を推測して、手持ちの「張り札」を裏のまま置き、そこに現金を賭けます。「勝負!!」の掛け声で、「胴」が札をめくり、選んだ数字が明らかに…。当たった張り子は配当金をゲット、ハズレた張り子は賭金没収、という流れ。

こんな感じで、おこないます。↓

日本侠客伝昇り龍 賭場


日本侠客伝 昇り龍』(1970年 山下耕作監督)より

上部中央に座ってるのが、「」。その両隣にいるのが、「合力」(進行係、配当計算係、見張り役、などの役目)。そのほかは全員「張り子」(客)。

ちなみに、札や現金を張る、白い板場を、「盆(ぼん)」と言います。今でも、「ボンクラ」って言いますけど、実は、この博奕場の「盆」が語源。「合力」の役割を果たすのは組の中堅以上の者ですが、瞬時に客の配当金を計算したり、さまざまな判断をしなければならず、それができる頭の回転が早い者を「盆に明るい」と言い、それができないザンネンな者のことを「盆に暗い → ボンクラ」と言ったそうですよ〜。任侠映画講座、勉強ニナリマスネ(笑)!



というわけですが、任侠映画ネタ、書きたいことが多すぎて、長くなってしまったので、次回に続きます〜〜!

続きは、コチラへ。
「仁侠映画について、その2。『緋牡丹博徒』での華麗なる手本引き、もしくは、ややこしい任侠映画タイトルを整理する。」
「仁侠映画について、その3。 博奕と893の歴史について、もしくは修行を愛する日本人論。」






★以下は、記事の冒頭にアップした、スライドの表紙画像に使用した映画のリストです。

【歌舞伎】歌舞伎の影響、歌舞伎役者の活躍:
雪之丞変化』1963 大映 監督:市川崑 出演:長谷川一夫、山本富士子、若尾文子、市川雷蔵、2中村鴈治郎、8市川中車

【浮世絵 吉原】人気浮世絵師と吉原遊郭:
大江戸五人男』1951 松竹 監督:伊藤大輔 出演:阪東妻三郎、山田五十鈴、花柳小菊、市川右太衛門、高峰三枝子

【花柳界】芸者と遊女、その歴史と生活:
祇園の姉妹』1951 第一映画 監督:溝口健二 出演:山田五十鈴、梅村蓉子

【任侠世界】侠客、博徒、そして女侠客:
緋牡丹博徒 一宿一飯』1968 東映 監督:鈴木則文 出演:藤純子、鶴田浩二、西村晃、白木マリ、若山富三郎

【戦前モダン文化】昭和初期のモダンガールと銀座:
限りなき舗道』1934 松竹 監督:成瀬巳喜男 出演:忍節子、香取千代子、山内光、井上雪子





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