井嶋ナギの日本文化ノート

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『冬の本』(夏葉社)が出版されました。もしくは、衝撃的な読書体験について。


久しぶりすぎる更新で、いつのまにか2013年になってしまいました。ボーっとしているうちに年があけて、雪まで降って、スーパーの入口には「バレンタインコーナー」まで設置されている、そんな焦燥感うっすら漂う1月なかばの、冬。

そんな冬にピッタリの本が、昨年12月に発売された『冬の本』(夏葉社)です。84人の本好きが「冬」に関連した本を1冊選んで書きおろしたエッセイ集で、私もエッセイをひとつ書かせていただきました!




まず、執筆者がすごいです。以下。

青山南、秋葉直哉、淺野卓夫、天野祐吉、安西水丸、いがらしみきお、池内紀、池内了、石川美南、井嶋ナギ、伊藤比呂美、伊藤礼、井上理津子、岩瀬成子、上原隆、宇田智子、内堀弘、大竹昭子、大竹聡、大谷能生、岡尾美代子、岡崎武志、荻原魚雷、角田光代、片岡義男、木内昇、北澤夏音、北沢街子、北村薫、北村知之、久住昌之、小林エリカ、越川道夫、小西康陽、近藤雄生、佐伯一麦、柴田元幸、杉江由次、杉田比呂美、鈴木慶一、鈴木卓爾、鈴木理策、曽我部恵一、高橋靖子、高山なおみ、田口史人、竹熊健太郎、武田花、田尻久子、田中美穂、丹治史彦、友部正人、直枝政広、長崎訓子、名久井直子、能町みね子、橋口幸子、蜂飼耳、服部文祥、浜田真理子、早川義夫、平田俊子、平松洋子、文月悠光、穂村弘、堀込高樹、堀部篤史、ホンマタカシ、前野健太、万城目学、又吉直樹、松浦寿輝、町田康、南博、森山裕之、安田謙一、柳下美恵、山崎ナオコーラ、山下賢二、山田太一、山本善行、吉澤美香、吉田篤弘、吉本由美

というように、各界のビックネームがズラリ。私なんかが入ってていいのだろうか…と、誰に言われなくても自分で思います。お正月に実家に帰ったときに父親に見せたら、もくじのページを見て、「お!池内兄弟(池内紀&池内了)の隣の隣に名前が載ってるじゃないか!すごいな!」と、そこを褒められました(笑)。

そんなゴージャスな執筆陣だけでもすごいのですが、さらに和田誠さんによる装丁がとっても可愛いのですよ~~。判型も小さくてキュートだし、紙質もしっとり上質。本好きな方へのプレゼントにもピッタリ!


こんな贅沢でステキな本を出版したのは、「夏葉社」という小さな出版社。なんと、島田潤一郎さんという方がひとりで営んでいる出版社で、2011年に第1冊目(マラマッド『レンブラントの帽子』)を出版して以降、『冬の本』で7冊目なのだとか。同じく自由で小さな出版社「ミシマ社」のサイトに、「夏葉社」を立ち上げた島田潤一郎さんのインタビューが載っているのですが、これもものすごく面白かったです。本好きは必読。

第56回 夏葉社ができるまで ~出家(!?)、失恋、そして、リーマンショック~(夏葉社・島田潤一郎さん編)
第57回 夏葉社は、まちのパン屋さんのような出版社を目指しています
第58回 夏葉社は、おじとおばと、まちの本屋さんとともに・・・


実は私、今回の『冬の本』に寄稿させていただくまで夏葉社さんのことを寡聞にして存じ上げなかったのですが、お話をいただきサイトを拝見して驚きました。何に驚いたかというと、その「志(こころざし)の高さ」に。それは、それまで出版された本の「タイトル」と「装丁」を見ればわかる。それまで出版されたラインナップと装丁を見て、「こんなことが今の時代に可能なんだ…!」と、驚いてしまったのです。

私も以前に『色っぽいキモノ』という本を出したり、仕事で出版社と関わってきた経験から、大好きでたまらない「本」というものをとりまく状況に対する、ある種の絶望感のようなものを持たざるを得ないようなこともありまして…。たとえば装丁ひとつとっても、本好きから見ればフツーに「本の装丁を大事にするなんて当たり前じゃん?」と思うかもしれませんが(私も昔はそう思ってましたが)、実際に出版業界にいて本の装丁について大切に真剣に考えてくれる人って、実はものすごーーく少ないんですよ…。昔々、某出版社にいたときに、「本の装丁はダサい方が売れる」と公言してはばからない男性がいて驚愕しました(で、実際できあがった本は衝撃的にダサくて若い女性スタッフが見た瞬間吹き出してましたが、それも本望なのでしょう笑)が、その人だけが特別ヘンというわけではなく、そういうことが少なくない業界ではあると思うのです(もちろん徐々に変わっていっているだろうとは思うのですが)。


まぁ、そんなことはおいておくとしても。とにかく、夏葉社さん、すごい出版社さんがあるんだなと思いました。だって、5冊目に出版した本が伊藤整の『近代日本の文学史』ですよ、巻末エッセイが荒川洋治さんですよ! 日本近代文学好きは買ってしまいますよね~(私は買いました)。志、高すぎる。上記のインタビューで私が何より感動したのは、以下の一文です。

夏葉社ではとにかくいい本にこだわりたいと思っています。いい本は何かというのも難しいと言えば難しいですが、夏葉社の場合は、この本と心中してもいいと思えるかどうか、です。


心中!!!! 穏やかではないですよね~~、心中って!! この穏やかならざるたとえ、素晴らしいと思いました。だって、そうなんですよ。そうなんです。読み終えたが最後、グサッと胸につき刺さってしかもそれを一生抜くことができないような、本との出会いにはそういう衝撃的な出会いがある。いわゆる「本好き」は、絶対にそういう体験をしてしまっていて、それゆえ憑かれたように本を求めずにはおれないようなところがある。

そもそも、本、って一言で言っちゃうから混乱するけれど、実は、本っていろいろあるんですよね~~。全部いっしょくたに「本」って言ってしまうのはどうなんだろうか? と、私なんかはいつも思います。たとえば、実際にいろいろ役立つ実用本やビジネス本もあれば、パラパラめくってイイ気分になれる軽いビジュアル本もあるし、通勤時間にササッと読んでストレス解消できるような楽しい小説もあれば、今の時代についていくための読み捨て的なベストセラー本もある。

だけどその一方で、「もう死んでもいいかも」と思えるような衝撃の体験を押し付けてくる本、というのが、ある。そう、押し付けてくるんですよ、遠慮なく。優しくないです、全く。ほとんど襲われるようなもの、とも言える。だけど私も、そんな本が好きで好きでたまらないのです。たとえば? たとえば…、ブロンテ『嵐が丘』とかニーチェ『この人を見よ』『ツァラトゥストラ』とかドストエフスキー『白痴』『悪霊』とかナボコフ『ロリータ』とかヘッセ『デミアン』とかコレット『シェリ』とかドールヴィイ『悪魔のような女たち』とかラクロ『危険な関係』とかサカノヴァ『回想録』とか秋成『雨月物語』とか久作『ドグラマグラ』とか谷崎『卍』『少将滋幹の母』とか鏡花『春昼・春昼後刻』『婦系図』とか、キリがないのでやめますが(以上のラインナップを見て自分のオーソドックスさが少し恥ずかしくなってきた笑)。

世の中にはいろんな本があって、それぞれ価値があると思うのですが、でもどうしても、私はこうした部類の本がすべての書物のなかで最も尊い、と信じているところがあります。これはもう、こうした作品世界を創造した人々への純粋な「尊敬」であり「憧れ」であり、私の唯一の「信仰」だな、と思う次第。


そうそう、鏡花の『雪柳』という短編も、「もう死んでもいいかも」と思うような衝撃の体験を押し付けてくる、ものすごい小説です(中公文庫『薄紅梅』所収)。短いけれど、ジワジワと自分のからだが何かに蝕まれていくような、そんな読後感を保証します(笑)。今回の『冬の本』で、私はこの鏡花の『雪柳』について書きました。ぜひ、『冬の本』と合わせて読んでいただけたら嬉しいです。



—— お知らせ ——

東京堂書店」神保町店の3Fで、『冬の本』フェア開催中(1月末まで)! 『冬の本』で取り上げられた本や執筆者の本、夏葉社さんの本などが集められています。私も見てきたら、なんと、拙著『色っぽいキモノ』が……感涙。ありがとうございます!


ちなみに、東京堂書店、去年リニューアルしたのをご存じでしょうか? ヨーロッパの本屋さんのようなウッディなインテリアになって、オシャレなブックカフェも付属。私も、神保町シアターの帰りにここでコーヒーを飲む、というパターンが定着しつつあります。オススメ!(神保町シアターも東京堂書店も)



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■ 夏葉社さんのtwitter

■ 『冬の本』の編集をされた北條一浩さんによる新著、
 『わたしのブックストア』(アスペクト)。
個性あふれる小さな本屋さんを取材したガイドブック。本をこんなに愛している人々がこんなにいるんだ…と思うと、なんだか胸が熱くなって感動してしまいました。本を読むって、徹頭徹尾「孤独な作業」なので、仲間の存在を感じるとつい涙腺がゆるみます。。行ったことない本屋さんもたくさんあったので、この本を持って一軒一軒ゆっくり訪れてみたいです。

■ さらに、北條一浩さんのブックイベントが開催されるそうです!
第67回西荻ブックマーク 2013年1月20日(日)
『冬の本』と『わたしのブックストア』 ~ 北條一浩・編著書 刊行記念特別企画!
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