井嶋ナギの日本文化ノート

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太地喜和子ストリッパー3部作、『喜劇 男の泣きどころ』『喜劇 男の腕だめし』『喜劇 女の泣きどころ』のススメ。

"太地喜和子"


太地喜和子が「大人向け」である理由


今月のはじめから神保町シアターで「太地喜和子」特集がはじまっていますが、今年でちょうど没後20年なんですね。

1992年10月13日、太地喜和子が48歳で亡くなった(飲み屋のママが運転する車が海に転落、同乗者は助かったが喜和子だけ水死した)とき、ワイドショウで連日大騒ぎしていたのを覚えてますが、まだ子どもだった私は、どうしてそんなに大騒ぎになるのか全くわかりませんでした。写真を見てもちっとも美人だと思えず、むしろブキミだと思い、「この人、美人でもないのに、なんでそんなに有名なの?」と母に聞いたほど。古い映画が大好きで、イングリッド・バーグマンとリリアン・ギッシュに憧れていた19歳の私には、太地喜和子の良さなんてわかるはずもありませんでした。(今日のエントリーで使用する画像は、すべて『喜劇 男の泣きどころ』のワンシーンです)

そう、太地喜和子は「大人向け」なんですよね。子どもに、アレは、わからない(特に中年以降の喜和子は)。むしろ、太地喜和子の良さがわかる子どもがいたら、それはそれで問題なんじゃないか(笑)。あ、でも中村勘九郎は19歳のときに太地喜和子と恋に落ちたのだっけ…さすが!

太地喜和子が「大人向け」であるその理由は、ザックリ言ってしまえば、「表面的な姿かたちの美」とは違う、べつの魅力が占める割合が非常に大きかったということだと思う。つまり、受け手のほうにそれなりの「解釈」をさせる「感性」「経験」が育っている必要があるとおもうのです。

太地喜和子の話になると、誰もがみな「ああいう女優さん今はいないよねぇ…」と言いますが、それはやはり、「表面的な姿かたちの美」以外の魅力をたっぷり身につけて、しかもそれを売りにしている女優さんがいない、つまり、今の芸能界がそういう女優の存在を歓迎していない、ということに尽きる気がします(まぁそういうタイプは事務所側も管理が大変だし、クライアントの問題もありますし、避けられるのもわかりますが)。そういう意味で、沢尻エリカの今後にはかなり期待したくなるのですが(笑)、まぁそれはいいとして。



瀬川監督によるストリッパー三部作で、太地喜和子の可愛さに開眼


"太地喜和子"



そんな私が、「太地喜和子、最高!」と思うようになったのは、忘れもしない6年前のこと。ラピュタ阿佐ヶ谷でやっていた「瀬川昌治監督」特集で、何気なく見た『喜劇 男の泣きどころ』に、衝撃を受けたのです。

日本にも、こんなに洒落たウェルメイドなコメディ映画があったんだ!!!!

と。あのときの嬉しさは、忘れられません。

太地喜和子の役どころは、陽気で情にもろいストリッパー。太地喜和子は当時29歳で、若々しい可愛らしさとなセクシーな妖艶さがちょうどよいバランスで。ストリッパー役としてあっけらかんと脱いでるけれど、ボリューミーでありつつも均整のとれたキレイな体だから、いやらしさも全然なくて。

とにかく、映画自体がおもしろいのですよ。古い日本映画が好きでいろいろ見てきましたが、この作品を見たときの興奮は今でも忘れられません。瀬川昌治監督による太地喜和子ストリッパー・シリーズは3作品あって、『喜劇 男の泣きどころ』(1973)のほか、『喜劇 男の腕だめし』(1974)、『喜劇 女の泣きどころ』(1975)があり、どれもこれも大大大傑作! これらの作品が名画座にかかるたび、必ず足を運ぶようにしてますけど、何度見ても面白いし、笑えるし、泣いてしまう。私はビリー・ワイルダーの作品が大大大好きなのですが、日本映画でワイルダー作品に匹敵する作品を挙げよと言われたら、迷わず、このシリーズを挙げます。カッチリした構成をもってよく練り上げられた「脚本」と、役者の当意即妙に繰り出される「」が、非常に高いレベルで共存している作品って、そう無いですよね。


"太地喜和子"



セクシーでカワイイ、娼婦型コメディエンヌ。それが、喜和子!



そんなわけですが、現在、神保町シアターで開催されている「太地喜和子」特集では、なんと太地喜和子ストリッパー3部作が一挙上映!(単品での上映ならたまにありますが、3作品いっぺんに上映というのはなかなかないです) さっそく昨日、『喜劇 男の泣きどころ』と『喜劇 男の腕だめし』を神保町シアターで見てきました! 平日の昼間だというのにかなり混んでましたが、やっぱり面白かったし、喜和子が可愛かった~。そして、ひょんなことからお知り合いになった瀬川昌治監督(86歳におなりですがとてもお元気です)と、なんと隣に並んでこの作品を鑑賞することになるとは…ファン冥利に尽きるとはこのことです。

特に、しみじみスゴイなぁと今回思ったのは、喜劇 男の泣きどころ』の脚本です(脚本家は瀬川昌治監督と田坂啓氏)。

ポルノ取締官刑事(フランキー堺)と、その妻(春川ますみ)、人気ストリッパー“べべ・モンロー”(太地喜和子)、ポルノ映画製造会社社長(藤岡琢也)、ポルノ映画界の“巨匠”(笠智衆!)などの登場人物が、最初から最後までしっかりと絡んでムダがなく、スピーディーなテンポ、予想もつかない展開でハラハラさせ、随所でクスッと笑わせ、最後にはしっかりホロリとさせつつ、ちょっとニガい後味も残す感じは、ワイルダーの『ねえ! キスしてよ』みたい!(ちなみにワイルダー自身は『ねえ! キスしてよ』が気に入ってなかったらしいけど、大傑作だと思う) しかも品行方正な方々からはそっぽを向かれそうな、絶対に文部省推奨にはならなそうな、ちょっぴりセクシーな艶笑譚、っていうところも共通してますよね。

ちなみに、太地喜和子が「陽気で情にもろい娼婦型としてのコメディエンヌ」キャラを確立したのも、この瀬川監督のストリッパー三部作において。その後、山田洋次監督の『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(1976)で、喜和子の「陽気で情にもろい娼婦型としてのコメディエンヌ」キャラが全国的に有名になったけれど、もともとは瀬川監督のストリッパー三部作で成功したからこそ定着したキャラクター。『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』は、寅さんシリーズのなかでも評価が高く、ナンバー1に挙げる人も多いくらいで、もちろん私も面白いと思ったけれど、しかしこのキャラはまんま『喜劇 男の泣きどころ』の人気ストリッパー“ベベ・モンロー”だよなぁ…と思ったり(笑)。でも、そうした喜和子のキャラが後に独り歩きしてしまうくらい、そのくらい『喜劇 男の泣きどころ』がよくできていた、ということなのだと思うのですよ。


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というわけですが、神保町シアターでの「太地喜和子」特集、『喜劇 男の泣きどころ』『喜劇 男の腕だめし』は明日金曜までの上映、今週土曜からは『喜劇 女の泣きどころ』が上映されますよ~! すべて未DVD化なので(なぜだ!松竹!)、この機会にぜひ!



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■ 瀬川昌治監督の作品について書いた過去記事
『乾杯!ごきげん野郎』
『喜劇 競馬必勝法 一発勝負』]

■ そして私の中のベストムーヴィのひとつであり、
 瀬川昌治監督の親友だったという、渡辺裕介監督作品についての過去記事も
『二匹の牝犬』 ~不幸を楽しむためのレッスン。真っ暗だって、いいじゃない!




おまけ。『喜劇 男の泣きどころ』でのすっごくカワイイ喜和子。

"太地喜和子"




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