井嶋ナギの日本文化ノート

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【入門編】キモノの着付けに必要なものをリストアップしてみる。 〜もしくは、着付け小物がやたらと多い理由について

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今さらですが、あえて今、「着付けに必要なもの」について書いてみたいと思います!

というのも先日、とある場所で、早稲田大オープンカレッジ講座に参加してくださった方にバッタリお会いしまして。お茶でも飲みましょうよ〜とお誘いしてお話してたら、その方は20代とお若い方なのですが、「キモノを着たいのだけど、何を揃えればいいのか…(ネットや本を見ても)どれが本当に正しいのか分からなくて」と仰っていたんです。

ネットで検索すれば、着付けの情報は溢れていますよね。だけど、ここまで情報が多すぎると、「実際どれを信用していいのか?」となるのも、確かにそうだなぁ…と。

そこで、「最低限、この着付け小物があれば、普通にはキモノが着られますよ〜」ということを、改めて書いてみようと思いたちました。あくまでも、私の場合ですが! (もちろん、着付けをマスターされている方は、スルーしてくださいませ)



最低限これを揃えておけば大丈夫! 着付け小物リスト


【下着Level 1】
肌襦袢、裾よけ、足袋

【下着Level 2】
長襦袢 or 半襦袢
半衿(長襦袢or半襦袢に縫い付ける)
衿芯(半衿のなかに入れる)
腰ヒモ
伊達締め

【着物Level】
着物
腰ヒモ(ウエストベルトでもOK)
伊達締め(コーリンベルトでもOK)

【帯Level】

帯板、着付けクリップ、腰ヒモ2本ほど
帯枕、帯揚げ、帯締め

【その他】
草履(浴衣のときは下駄)
手ぬぐい(体形補正のためにあると便利)

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と、ザッとこのくらいの着付けグッズが必要になります! …なんだか「いっぱいあるな…」って感じがしますね(笑)。

こうした着付けの煩雑さを知ると、「キモノを着ていた昔の日本人は大変だったんだなぁ」と思ってしまうかもしれませんが、こんなに着付け小物が多くなってしまったのは、近代以降、なんですよね…(これについては、後述します)。

まぁ、それはともかくとして。それぞれの着付け小物について、画像でお見せしますね。というわけで、突然ですが、わたくしイジマナギが普段使っている着付け小物を、大公開〜!


1:下着Level 1

ひとまずは、素肌に身につけるレヴェルでの、下着です。


■ 肌襦袢(はだじゅばん)

f:id:nagi0_0:20170321222329j:plain 裸の上半身に直接着る、いわゆる肌着です。綿100%です。
私は、上画像の、踊り用の肌襦袢をずっと愛用していますが、普通はこの肌襦袢は使わないです(笑)。もっとシンプルな、白の肌襦袢が一般的です。
肌襦袢の代わりに、(普通の洋服屋さんで売ってる)チューブトップで済ます場合もあります。


■ 裾よけ(すそよけ)

f:id:nagi0_0:20170321222336j:plain 下半身用の肌着で、ロング巻きスカートのように着用します。蹴出し(けだし)とも言います(江戸風の呼び方)。
これも、私は、上画像の踊り用の緋色のものを愛用してます。普通は、白か薄いピンク色などが一般的です。


■ 足袋(たび)

f:id:nagi0_0:20170321222344j:plain いわゆる靴下です。4枚こはぜが標準です。
本式は綿100%ですが、ストレッチ素材の伸びる素材なども便利です(どんなサイズでもOKだったりするので)。



2:下着Level 2

次に、長襦袢レヴェルでの、下着です。


■ 長襦袢(ながじゅばん)&半衿(はんえり)

f:id:nagi0_0:20170321224640j:plain 長襦袢とは、着ると足首くらいまである、ロングワンピースの下着です。
上画像はアンティークの長襦袢なので、変わった柄が入っていますが、現在の標準は、白か薄ピンク色が一般的です。
長襦袢には、あらかじめ「半衿」を自分でチクチクと縫い付けておきます。ここは、私もハードルの高い(面倒くさい)ところです…。


■ 半襦袢(はんじゅばん)&半衿(はんえり)

f:id:nagi0_0:20170321233511j:plain 半襦袢とは、(足首まであるロングな長襦袢と違って)半身のもので、しかも見ごろ部分は綿でできています。つまり、半襦袢は、長襦袢では大げさなときの略装用として今は扱われています(昔昔は、半襦袢のほうが本式だったんですけどね…)。
でも今は、冬でも暖房が効いていて長襦袢だと暑くなっちゃうので、私は半襦袢で済ませることも多いです。これも、私は、裾よけと同じ緋色で揃えて愛用しています。


■ 衿芯(えりしん)

f:id:nagi0_0:20170321224653j:plain f:id:nagi0_0:20170321231458j:plain 長襦袢or半襦袢の半衿のなかに、「衿芯」というプラスティックの芯を差し込みます。これは、着たときの衣紋のカタチをシワなく美しく見せるためです。
が、昔は衿芯なんて入れていなかったので、好みで入れない人もいます(特に普段着は)。


■ 腰ヒモ

f:id:nagi0_0:20170321224714j:plain 着付けのときに、やたらと使う腰ヒモ(というか、ヒモ)。少なくとも4、5本は欲しいところ。モスリン綿のものが、スベリにくくてギュッと締まるのでベストです。
私は、上画像のような緋色のヒモや、「月影屋」のオモシロ柄のものなどを愛用してます。少しでも、着付けが楽しくなるように…と。


■ 伊達締め(だてじめ)

f:id:nagi0_0:20170321224721j:plain 衿もとを、腰ヒモで押さえた上から、さらにキュッと締めて安定させるのが、「伊達締め」。私は、正絹の博多織のものが好きで、いろいろ集めています。伊達締めはカワイイものが多くて、ついつい買っちゃいます。



3:着物Level

次に、いよいよ、キモノを着ます!


■ 着物

f:id:nagi0_0:20170321234018j:plain 着物についてここでは細かく説明しませんが、大きくわけて、裏地のついている「袷(あわせ)」と、裏地のついていない「単衣(ひとえ)」があります。「袷」は10月〜5月まで、「単衣」は6月〜9月までです。
上画像は私の私物ですが、左が袷の色無地(一つ紋)、右が紗の単衣です。
ちなみに、もし古着の着物を買いたいという場合は、着物の身丈=「自分の身長−5cm 〜 自分の身長+5cm」をメドにするとよいと思います(ジャスト自分の身長がベストですが)。


■ 腰ヒモ or ウエストベルト

f:id:nagi0_0:20170321234028j:plain 長襦袢を着るときに使用した腰ヒモですが、着物を着るときにも使用します。そして、ここは、着付けの肝心要の最重要ポイント
なので、より確実に着崩れを防ぐための、「ウエストベルト」というゴム状の腰ベルトも売られています(上画像)。私は、花柳美嘉千代師匠から教わって以来、こちらを愛用しています。舞踊家さんは愛用者が多いそうですよ。


■ 伊達締め and コーリンベルト

f:id:nagi0_0:20170321234034j:plain 衿もとを、腰ヒモで押さえた上から、さらにキュッと締めて安定させるのが、「伊達締め」。と、長襦袢の項で書きましたが、着物を着るときも同じプロセスをおこないます。
ただ、現在は、より確実に衿もとの着崩れを防ぐために、「コーリンベルト」というクリップ付きのゴムベルト(上画像)で、衿もとを固定する方法が普及しています。私もコーリンベルトで衿もとを固定して、その上から、さらに伊達締めでギュッと衿もとを押さえてます。とにかく、着崩れさせないためヒッシ…。



4:帯Level

そして、ついに、帯を締めます!


■ 帯

f:id:nagi0_0:20170321235652j:plain 帯についても詳しくはここで書きませんが、着物と同じで季節によって違いがあります(江戸時代は季節によって帯の違いはありませんでしたが)。着物が「袷」のときはぶあつい帯、着物が「単衣」のときは透ける素材の帯(絽、紗、麻など)です。
上画像は私の私物ですが、左は裏表同じ織生地の丸帯、右は絽つづれの帯です。


■ 帯板(おびいた)

f:id:nagi0_0:20170321235700j:plain 帯を体に巻くときに、この板(厚紙製)を入れることで、帯がクシャクシャっとシワになるのを防ぎます。
が、明治大正時代くらいまでは、帯板を入れずに体に帯をくたッと沿わせていました(特に普段着は)。現在のように、帯にシワがないことが本当に美しいのか? というのは、議論の余地があると思います。
上画像は、下の水色の帯板が、通常タイプのもの。上の黒い帯板は、実は、前でお太鼓を結んで、この帯板をクルリと回して、ハイ出来上がり、となる便利な帯板です(私はうまく使えてませんが…)。


■ 着付けクリップ

f:id:nagi0_0:20170321235709j:plain 着付けのときに、何かと便利なクリップです。特に、「ひとりで背中で帯を結ばなきゃいけない」場合は、必須です。


■ 帯枕(おびまくら)

f:id:nagi0_0:20170322000910j:plain お太鼓のカタチを作るために使います。いろいろな大きさがあって、好みで選びます。フォーマルになるほど大きめ、カジュアルダウンするほど小さめ、ですね。
昔は、新聞紙など丸めて自作していたようですよ。


■ 帯揚げ(おびあげ)

f:id:nagi0_0:20170322000916j:plain f:id:nagi0_0:20170322000922j:plain 帯枕に掛けて使用します。はた目に見える面積は小さいながら、着物と帯をつなぐ、重要なコーディネートポイントになります。
私は、自分のテーマカラーが「紫」なので、紫系のグラディエーションのものをいろいろ集めています。
また、好きな布を買ってきて自作したり、スカーフを援用したり、という方も多いです。


■ 帯締め(おびじめ)

f:id:nagi0_0:20170322004929j:plain 結んだ帯を、この帯締め一本で固定します。
上画像は私物ですが、私は、右上の冠組(ゆるぎ)と、左下の二分紐・三分紐+帯留め、というのが私の定番です。
私は好みの幅が狭すぎるので(笑)、上記のようなアイテムばかり使用していますが、帯締めは、本当にいろ〜〜んな種類があります。ここは、自分ならではの個性を出せる部分だと思います。





着付け小物がやたらと煩雑になってしまった理由について

というわけで、細々と解説しましたが、いかがでしょうか? これだけのアイテム揃えるの大変…と思われたかもしれませんね。

上記でもすこし触れましたが、このように着付け小物がやたらと増えてしまった背景には、近代に入ってから起こった「装いの変化」がありました。私は、以下の3つが挙げられると考えています。

洋服風にキチッと着付けなければいけなくなったこと

(それなりにフクザツな結び方である)お太鼓結びが(なぜか)標準になってしまったこと

昔であれば女中がいるような身分の人が身につけるような帯・着物を、庶民も着るようになったこと → そのため、自分ひとりで着付けなければいけなくなったこと

こうした社会的変化により、こんなにまで着付けグッズが増えてしまったのだ…ということが分かれば、「着付け小物も決して絶対ではないのだ」ということが、おわかりになるかと思います。つまり、「普段着だったらコレは要らないかもな〜」とか「フォーマルだからコレは絶対必須だな」とか、その着付けグッズの「強弱」の感覚がわかってくると思うのです。

こうした着付け小物やキモノの歴史や文化史的なことがらを知りたい方は、ぜひ、拙著『色っぽいキモノ』をお読みいただけたら嬉しいです〜(宣伝)。


ちなみに、今回ご紹介した私の着付け小物は、かなり「私の好みがディープに反映」されています(「緋色と紫色、多すぎない?」と自分で思う(笑))。なので、コレが絶対というわけでは、決してありません! ので、そこは誤解なきよう。

皆さまがキモノライフを始める際の、ご参考になれば幸いです…!





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